第二百五十七話 次の助けへ
岩が消え去り、遠くまで見えるようになると、周りの様子が改めてわかった。
壁には血が飛び散り、地面に至っては最早血の海、その上に横たわるように様々な死体が倒れている。
……正直グロいけど、可哀想とは思わない。
今更な話だけどこっちが殺さなきゃ、相手に殺されるのが私たちの戦いだ。
消し炭にされるのも、首を切り落とされるのも……相手にとっては死んだと言う事に変わりはない。
要するに、ここに有るのが血の海と死体でも、何もない塵の空間でも、私の受け取る物は変わらないと言うわけだ。
「……さて」
一息ついて、懐の中を弄る。触れた覚えのある硬い物を掴んで取り出すと、その手にあったのは。
「……回収、するかな」
私の手には、しばらく見ていなかった薄黄色い石。
腕を伸ばし、それを死体の群れへと近づけると、血や肉体の縁が薄黄色く光り、不思議な光へと包まれていく。
死体は光へと変換され、少しずつ輪郭を失っていった。
近くにあった死体の先端がこちらを一瞬向いたかと思った次の瞬間、死体だった光は、その全てが石に向かって一つの塊となりながら動く。
石もそれに呼応するようにしてその光を吸い込んでいき、明らかに質量に見合わない量を吸収していく。
その全てを吸収すると、最後にはまるで初めから何もなかったかのように、血の一滴すらそこから消えて無くなっていた。
「サツキ!」
不意に聞こえてきた声に、反射的に聞こえてきた方向へと視線を移すと、こちらへとやって来るフレイがいた。
「ああ、フレイ。ありがとね、一応一通り片付けて置いたから」
「そうですか……怪我は有りますか? あれだけ激しい戦いをしたんですから、何処か身体に不備が生じている可能性も……」
そう言いながら、フレイは心配げに私の腕や肩をペタペタと触る。
側から見ると結構ギリギリの戦いだったのかもな……まあ、実際はしっかり圧倒していたし、問題もないだろう。
「大丈夫だよ、ノーダメージだし、余裕余裕! それに怪我くらいすぐに『変化』で治せるしね!」
私がそう言って陽気に振る舞おうとすると、フレイは少し釈然としないような顔をして。
「……治せればいいということでは無いのですが……とにかく、怪我がない事に越したことは有りません。次はイレティナとウンディーネをお願いします」
「うん、じゃあ早く移動しちゃおっか。芦名もこっちきてね」
私の呼びかけに芦名もこちらへと近づき、改めてフレイも身を寄せる。
『神速』で行くよりも、こっちの方が遥かに早いからね。
「……よし。じゃあ行くよ、『時空転移』!」