第二百四十九話 フレイとサツキ
倒れるフレイに、私はまず最初にその言葉を上げた。
……ここまで、本当に長い、長い旅路だったのだろう。他人に気をかけられるほどの余裕も残っていなかったはずだ。
……それなのに、私の事を真っ先に気にかけてくれた。
記憶は朧げだけれども……それだけは覚えている。
「バっ……馬鹿な! あり得ない! 何故、何故貴方が正気に戻っているのですかッ⁉︎」
フレイに向かって視線を落としていると、その先から静寂を叩き割るような声でホークアイが叫ぶ。
ちらりと目をやると、こちらを指差して細い目を見開いていた。
色々と言いたいことはあるが……一周回って、むしろ何と言えば良いのか……。
とは言っても、この男に構ってやる時間なんて無い。今はもっと、やるべき事がある。
「……お前には一生分からないさ」
だから、そう一言、ホークアイの質問に答えて私は再びフレイに視線を戻した。
あちこちアザだらけだ……。特に手足は真っ青になって、フレイの白い肌は見る影もない。
この傷は……私がつけたような物だ。目だけじゃ分からない怪我も有るかもしれないし、ここは……。
『万物理解、フレイの怪我の状況を』
『検索中……把握しました。腕部、真皮の内出血多数。皮膚に軽度の損傷、右手根骨の損傷。脚部、真皮の激しい損傷と共に中足骨の機能停止を確認。体内マナ、欠乏状態です』
……自分で動くのはかなりキツそうだけど、致命傷では無いみたいだ。
良かった……目覚めるかは分からないけれども……。
「『変化』」
周りの空気がフレイの手足へと集まって行き、目に見えるアザはみるみると消えていった。
空気を変化させて、損傷した部分を作り直せた。久しぶりに使ったけども、割とうまくいったな……。
「……ん……」
空気がフレイの怪我を全て治すと、すぐにフレイは小さく呻いた。
目を開け、ゆっくりと体を起こし、寝ぼけているのか目を擦っている。
しばらく辺りをキョロキョロと見回していると、フレイはこちらへ気づき、目を丸くして。
「……あ」
思わず漏れたかのような声を出した。
少し自分の顔が笑っているのを感じながら、私はフレイの前にしゃがんで向かい合った。
「サ……サツキ……」
「ただいま、フレイ。ここまで来てくれて、本当に疲れたよね……ありがとう」
精一杯の感謝を込めながら、私はフレイがやってくれたように、彼女に向かってその言葉を言った。