第二百四十五話 記憶
こちらへ背を向け、地べたに座っているために、顔こそ見えなかったが……。
膝まである白いローブを着て、その上から重なるように長い黒髪を垂らすその姿は、まさしくサツキだった。
周りが闇で覆われているにも関わらず、サツキの姿だけがはっきりと私の目に写っている。
だが、今はそんな事は構わない。
ここにサツキがいると言う事は、私の幻覚ではない限り……この世界の主は、サツキだ。
……そうだ、思い出した……。
気絶する直前、私はサツキの精神の壁に触れていた。
どういった理由なのかは分からないが、私の精神だけがこの世界に送り込まれたのだろう……。
そう考えると、この地面にも見当がつく。
黒に近い青色を放ち、踏み締めた場所から波紋が現れる……。
そう、まるで深海のようなこの地面は……あの壁と一致しているのだ。
そして……今見ているサツキが幻覚でないのなら、私にとってはとても好都合なことだ。
壁に阻まれていたサツキの心も、今なら聞くことができる。
私はそっと歩み寄り、サツキのすぐ後ろに立った。
「……サツキ、助けに来ましたよ」
出来るだけ優しく、語りかけるような口調で言った。
「……」
しかし、サツキは何も返事をしない。
返事をしない……と言うよりも、まるで反応を示さず、ピクリとも動かない。
……何か、変だ。
「あの……サツキ……?」
そう呼びかけながら、腰をかがめて彼女の方にそっと触れると。
その瞬間私の瞳に何かが映り込んだ。
黒い鎧を見に纏った人間が目の前に現れ、こちらへ向かってくる。
「っ⁉︎ な、何が……」
咄嗟に身構えるも、こちらへ到達するよりも先に、人間はフッと消えてしまった。
……今のは……?
気付けば私はサツキから後退り、距離をとっていた。
驚いて後ろに下がってしまったのか……? 何か、幻覚を見せられていた……サツキに触れた瞬間……。
……いや、あれは本当にただの幻覚なのか……? あの姿、何か見覚えがある……。
私はサツキの方を不審に見ながらも、何か記憶にないか探ってみた。
しかし、思い出す限りでは、黒い鎧を着た人間にあったことなど一度もない。
……そういえば、さっきは驚いて気になっていなかったが、背景まで見えていたような……。
瓦礫のような物も見えていたが、綺麗な、城のような雰囲気……。
まさか……。……そう考えると、間違いない。
黒い鎧を来た他人は知らないが、自分なら知っている。
あれは私だ。背景は一番最初にサツキが王と戦った時のあの城……。
と言う事は……あれは、サツキの記憶か……?