第二百四十二話 覚悟
……全て、納得が行った。
サツキが今、確かに危険な状態だと言うこと。そして、彼らがサツキを殺す気はないと言うこと。
……よく分かったが、私はそれ以上に、怒りが腹の底から込み上げていた。
精神だけを壊す、だと……? そんなこと、して良いわけがない……サツキを、人をまるで玩具の様に扱うなんて……
「どこまでも……本当に腐っています……! あなた達は……! 『神滅槍』!」
巨大な光の槍が生成され、一瞬の間も持たずに放たれる。
それだけでは飽き足らず、次々と『神滅槍』が現れ、ホークアイに降り注いで行った。
こちらに届くほどの大きさのヒビが地面に入り、小綺麗な金属の床を叩き割る。
それと同時に土煙が巻き起こり、周囲の風景が一瞬遮られると。
「ですから……先程から言っているじゃ無いですか。私に攻撃は効かない……と。
そもそも、こんな所で感情を爆発させている暇なんて、あなたには無いのでは?」
姿が見え辛くとも、人の神経を逆撫でする様な煽りめいた言葉遣いでホークアイの表情は容易に想像できた。
ホークアイは……私を挑発しようとしているのだろう。乗せられない様に注意しなければ……。
……いや、もう私はすでにこの男の言動に乗せられてしまっていた。
いくらサツキにやっていた事が酷いからと言って、私が怒りに任せて暴れればマナは消費されるし、時間も削られてしまう。
……それに、今戦っている、皆の努力だって……。
……これ以上、私意で動いてはいけない。
私だけが、今この状況を解決できるのだから。
荒くなっていた息を整え、私は再び後方へ体の向きを入れ替え、ホークアイを背後にする形になる。
「……おや? どうしたのですか? 私のことが憎いのでは無いのですか? それとも……サツキさんの無念はもはやどうとでも良いと?」
私の背に向かって、ホークアイは声高く聞いてくる。
私は振り向かずに、落ち着いた声色で口を開いて。
「貴方が憎い程度で考えることをやめられるほど、私の背負っている物は重く無いんです。
私は今……六人の仲間の命を背に戦っていますから」
そう、決心する様に言って壁の方へ歩み始めた。
六人……サツキも入れて、六人だ。もしサツキが壊れてしまったら、今までのサツキは消え去ってしまう。
想像でしか無いが……きっと、記憶も、心も……最後には人格まで、なんて事だって……。
「貴方にサツキさんの事等分かるはずがありませんよ。持つ力も違ければ、苦悩だって違います。
貴方如きが分かる人では、無いんですよ……」
歩んでいく私の背に向かって、再びホークアイが声を張り上げて行った。
しかし、その声色は先ほどよりも余裕がなく、明らかに怒りを抱いていることがわかる。
だが。
「……」
最早、私が彼に掛ける必要のある言葉等何一つない。
何も言わずに、壁の前へと立ち、再び私は対峙した。
……サツキ、貴方の事を知っていると、証明して見せます!