第二百四十話 心の壁
行けない…? いや、この男の言葉をそのまま受け取ってはダメだ。きっと私を惑わそうとしているはず……。
「な、何をふざけた事を……。イレティナの届けてくれた矢で、壁はこの通り、に……」
私は揺るがぬ証拠とばかりに、薄ら笑いを浮かべるホークアイに見せつけようと振り返る。
しかし、そこには開けた空間はなかった。代わりにあった物は……
「ま……また、壁……⁉︎」
先程の漆黒の壁と比べ、暗い空間であるにも関わらず蒼い色を放ち、自ら光っているようであった。
波紋のような物が所々に発し、水のような印象まで受ける。
「あの壁が、貴方をここで足止めするのですよ」
「……にしては、簡単に破れそうじゃ無いですか。イレティナの託してくれたこの力なら、どんな物だって貫けます!」
イレティナの矢なら、あんな壁は問題では無い。
一瞬驚いてしまったが……何も心配する事はないだろう。
「……ふふ……そうですか……」
ホークアイは私が矢を握りしめているのにも関わらず、静かに笑ってこちらを眺めている。
……何がそんなにおかしいんだ? ……気にはなるが、やるしか無い。
後ろ髪を惹かれる気持ちになりながらも、私は再び壁の前に立ち、強く矢を握る。
サツキ……今、助けます!
「はぁっ!」
私は矢を振りかぶり、壁に向かって黄金に光るその矢尻をぶつけた。
壁は貫かれ、ヒビと共に砕け散っていく……はずだった。
「いくら物質を全て破壊できようとも、模造品に過ぎませんからねぇ……ふふふ……最も、本物だったら貫けていたかもしれませんが……」
壁には、傷一つついていなかった。
ぶつかった矢は反動で弾かれ、床にカランと音を立てて落ちる。
「……は……? そんな、まさか。こんな壁一枚ぐらい、簡単に___」
「だからさっきから言っていますでしょう。その矢は模造品なんですから、すべてを貫くと言う力だって劣化しているんです」
やれやれとでも言うように肩を竦めて、ホークアイはそう言う。
何故この男が部族の矢の事を……⁉︎ いや、それよりもさっき言っていた事……物質しか貫けない……?
他のものに干渉しているんだから、あの壁だって物質に決まっているはず……
「その壁は精神の壁。彼女、サツキさんの心にある壁を具現化したものです。
解除方法はただ一つ……ええ、私は親切ですからね、教えて差し上げましょう。解除方法は、サツキさんの求めていた事を叶えてあげる事です」