第二十三話 白き身体
気付くと、私は見知らぬところにいた。どこまでも続く暗闇……どこを見回しても何も見つからない。
私は一体何を……?っ!そうだ、あの男を倒す為に機械を使ったんだ!
私は脚を踏み出し、闇雲にこの場所から脱する出口を探す。
どこに……?どこに出口が……?
しかし、出口は見つからない。心臓が激しく動くがそれに比例する成果は見出せない。
「わっ」
突如、私の足は地なのか空なのか見分けのつかない、踏んでいた物を踏み外してしまう。
一体何が?私はどうもどこまでも落ちて行く、と言うことにはならなかったらしい。
今現在ぶつけて痛めてしまった頭がその証拠だ。
痛い部分をさすりながら姿勢を戻そうとすると、予想だにしていなかった新しい物、目の前に白いオーブのような物が見えた。
純白の色を持ち、明らかに外界と隔絶された物質。漆黒と純白の淵は確実にはっきりとした輪郭を持っていた。
その人を引き込む妖しい風貌は、私の興味を駆り立てそれをしていたことに気付く前に手を伸ばさせる。
そうして私の指先がその不可思議なものに触れた瞬間。
「触るな、現世の下等生物風情が」
凛とした女性の声が突然意識に響く。恍惚としていた私の意識は正気を取り戻し、手を即座に引いた。
「あ!すみませ……ちょっと待ってください、誰ですかあなた!?」
咄嗟に私は癖がたたり頭を下げようとするが、ふとそれ以前に気にすべきことがあると気付いた。
この声はどこから響いている?この場所には何も無いはずだ。
「私のことか?ふん、貴様のような我々の劣化版、その上何も持ち合わせぬという劣化版の中でもとり分け能無しの無能には教えてやることなどないわ」
……あの男とはまた違う腹の立つ口調。傲慢というべきか、私はだんだんムカついてくる。
しかし、目的を忘れてはいけない。今はここがどこなのか知る必要もある。上手く丸め込められれば、脱出が可能かもしれないのだ。
「じゃあ先に名乗りましょう。私の名前はフレイ。貴方の言う下等生物ですよ。
貴方の名前は?」
私が名乗りを上げ、上を向き返答を待つと、侮るような鼻で笑う声が聞こえてきた。
「何度も言わせるな。私以下の生物に教えてやる気などないと言ったはずだ」
もちろん覚えている。だからこそ今名乗りをあげたのだ。
彼女は劣る、それ以下という言葉をこの間にも多用している。
ならば、聞き出す方法など簡易的である。
「え!?下等生物ができるような事が出来ないんですか!?
まさか自称私以上のくせしてそんなことすら出来ないとは!」
私は自称の語気を特に強め、相手の機嫌を逆撫でするように言葉を発する。
「はあ!?そんなわけ無いだろうが!やろうとすればそんなこと簡単だ!
貴様こそ、そんなことでいちいち威張るとはやはり下等生物そのものだな!
我々以下と言うことが改めて分かる!」
彼女は凛としていた声を荒げ、私の挑発に食いつく。
想定通り上手く行いった。私は内心ほくそ笑みながら、次の工程へと移る。
「えぇ〜?でもそうは言っても私貴方に教えられていませんし……
やっぱり自称ですよね?姿が見えないのもただの人間だと思われたく無いからですよね?」
私がその言葉を言うと、彼女は唸りだし、空間が揺れ動く。
「あああああああああ!自称な訳あるか!私はマナティクス・カース、貴様ら下等生物の世に満ちるマナの祖である!豊潤なマナを持つ貴様の精神にアクセスし、コンタクトを計ろうとしたまでだ!
あと、姿はとっくに見せているぞ!」
一気に溜め込んでいた怒りを吐き出し、それと同時に情報が出て来る。
しかし、いくつか気がかりな点があった。
「とっくに見せている……?もしかして、このオーブですか?」
私はそれを指差しうさんくさい、というような表情を出す。
「下等生物ごときが神に向かって指を刺すな。全く、本当に礼儀のなっていない奴だな……」
マナティクス、と名乗ったそれは呆れたように声を上げる。
サツキよりははるかにマシだと思っていたが……。
むしろ生物かどうかも怪しいものに礼儀がなんだとか言われても困る。
が、今はいちいちそんな事を言っている場合では無い。
この声の正体はマナの祖であり自称神、名をマナティクス。
正体は白いオーブ、それで十分だ。
「で、精神にアクセスって言っていましたね?要するにここは……」
私の精神世界。何かしらの理由でここに来てしまったのだ。
「そういうことだ。貴様は精神が安定していないにも関わらず、私の力を扱おうとした。
だから今は外界との意識の接続が絶え、この精神世界に意識が移っているのだ」
精神が安定しないまま……?マナを扱う……そうか!
「私、機械を使って……!」
早く、意識を取り戻さなければ!
しかし、どうやって……
「機械と言うのは大層不格好な名前だな。
私が名を与えてやるから、これからは「機械仕掛けの神」と呼ぶがいい。
機械で神たりうる私の力を引き出すのだからな」
マナティクスは名前などと、どうでもいい事をつらつらと言っている。
「そんなことはどうでもいいんです!この場所から出る方法を教えてください!」
私が聞きたい事を訴えると、マナティクスは不機嫌そうにするが、口を開き始める。
「……神の言葉をそんなことと言うのは不敬だが、その物事を乞う精神は感心した。
だが意識を自力で戻すには、それなりの試練が必要だ」
マナティクスは淡々とその言葉を述べる。
試練……試練……?
「それはどう言う……?」
私が問うと、彼女はその白い身体を少し揺らし、ひとこと述べた。
「過去の心の傷を克服することだ」
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