第二百三十七話 孤独と手紙
でも……やるしかない……!
「っ……! 『神滅槍』! 『無限連撃』! 『天駆脚』ッ!」
マナを全て解放する勢いで、次々と私は自らが使える武器を繰り出していく。
槍が突撃し、それに連なる様に剣が群れをなし、それとほぼ同時に何十倍も分厚くした足の装甲が壁へと激突した。
しかし、壁はやはり何も変わらず、槍は砕け、剣の群れは崩れ落ちる。
『天駆脚』も強く打ちつけすぎたせいか装甲がほぼ無くなり、僅かな一部分が痺れている私の足にへばり付いているのみだった。
「……うぅ……っ! っぁあああ!」
一心不乱に私は壁を蹴り続ける。
全力だったため、蹴るたびに足に傷が付いていき、装甲のかけらも地面へボロボロと崩れ落ちていった。
何度蹴っても壁にはヒビの一つも入らず、引っかき傷すら生じない。
繰り出した武器たちと同じ様に、私の足も傷ついていった。
爪が割れ、足の指先からは血が溢れ出る。足の甲はアザだらけになり、あちこちが青黒く変色していた。
私はそれでも止まらず、ただただ蹴り続ける。
「はぁっ! はあっ! は……ぁ……」
……しかし、マナ切れなのか、はたまた体力の限界なのか、私は倒れる様にしてその場に四つ這いになる。
……駄目だ……絶対にこの壁を壊さなきゃ行けないんだ! この壁を貫いて、早く……皆を……!
心に棘を突き刺される様な気持ちを覚えながらも、私はまた立ち上がろうとした。
しかし、最早私の手足は指先一つすら動けない状態だった。身体を動かそうとしても、まるで背に岩石を乗せられているかの様に動かない。
後ろではアシナが足止めをして、戦っている。
だがいつまで持つかは分からない。皆だって……もう危機は目前の筈だ。
どうして……どうしてこんな所に壁があるんだ……。
これさえ無ければ、もうとっくに私達は助かっていたのに……。
その時、最早顔も上げられない状態の中、私の体の下に何かがカランと音を立てて入り込んできた。
見ると、それは血に濡れた矢だった。見た目のほとんどは鮮血に覆われ、とても赤い矢だった。
……なんだ? 敵がアシナを切り抜けてしまったのか。……もう、今更敵がどうだなんて___
そう考え、矢を眺めていた時、矢尻の先端に何か煌くのが見えた。
それは全体が赤色に染められていた中、まるで私に何かを伝えるかの様に……金色に光っていた。
……金……色……? まさか、これは……!
姿を改めて見直すと、確かにそうだった。間違いなく、それだった。
……部族の、イレティナの矢だった。
何でこんなところに……⁉︎ つまり、イレティナの武器は今無いということ……
一体どうして⁉︎ まさか……本当にイレティナは……。
よく見ると、何やら矢の下から半分が無くなっていた。というよりも、誰かに折られた様な……。
だが……そんな事できるのはイレティナぐらい……。だったら、何で……
更に見ると、あることに気づいた。
矢の軸に文字が彫り込まれていたのだ。血に濡れていてもはっきりと分かるほどに、しっかりと。
……そこには
『ファイト!』
そう、それだけが彫り込まれていた。
だが私には充分すぎるほどに、それは温かい言葉だった。
「イレティナ……わかりました」
その言葉を胸に、最後の、ほぼ無いと言うほどの力を振り絞って足を地面につける。
「うっ……ぐっ……はっ……はぁっ!」
踏ん張り、今にも倒れそうではあったが、何とか私は立ち上がることができた。
ヨロヨロと頼りない足取りの中一歩一歩踏みしめ、矢を握る片手に全力の力を込める。
壁の目の前に立ち、私は再びそれを睨みつけた。
しかし、今度は希望を胸に抱いて。
「皆で進んだこの道は! 誰にも阻ませたりなどしません! はあああぁっ!」
その声とともに、私は矢を壁に振り下ろした。