第二百三十六話 超えられない壁
間違いない……これはサツキの声だ……!
……でも、どうしてサツキがこの壁の内側に……? あの大量の敵を切り抜けられたとして、今更壁一枚に阻まれるはずが無いのに……。
「お、おい、どうしたんだ? 何かあったのか?」
耳を壁に当てている私の姿を奇妙に思ってか、アシナは気にかける様に聞いて来る。
……何故か、なんて今はどうでも良い。とにかく、ここにサツキがいるなら一刻も早く出さなくてはいけない。
「……ここに、サツキがいます! 声が聞こえてきました」
「なんだって……⁉︎」
それを聞いた途端、アシナは驚く様な声を上げながら、私の横で私と同じ様に、耳を壁に押し当てて声を聞こうとする。
数秒もしないほどにアシナは再び顔を上げると、信じられないとばかりに目を見開いて。
「……確かに、居るぞ。この壁の奥に……!」
驚愕と希望の混じった声でこちらへ振り向く。
……少し心配では有ったが、私の幻聴でも無い様だ。
そうと決まれば……やる事は一つ!
「『神滅槍』!」
巨大な光の槍を生成し、私は壁の一点を目掛けて撃ち放った。
先端が触れた瞬間に、辺りに激しい爆音が響く。しかし、私の目の前にあったのは。
「壊れない……⁉︎」
目に映ったのは、壁とぶつかりボロボロに崩れ落ちていく『神滅槍』の姿だった。
槍とぶつかったにも関わらず、壁は傷ひとつ付いていない。
おかしい……ただの壁がどうして『神滅槍』で破壊されない……⁉︎
いや……まさか……この壁はただの壁では無いのか……⁉︎
「壊れねえのか⁉︎ だったら、俺の『無限』で___」
アシナがそう言ってマントを広げようとした瞬間、彼の頬を何かが突っ切っていった。
アシナの頬から血が流れでて、顎にかけて赤色に染まる。
「敵ですか……⁉︎」
アシナの方へ振り向くと、その背後から五、六人の敵が走って近づいて来ていた。
何故だ……? イレティナとウンディーネが居たはずなのに、何故敵が……
「まさか……二人は……!」
「今は気にしている暇なんて無えぞ! 生きてりゃアイツの『変化』か何かで治せる!」
アシナは大声を張り上げ、向かう敵と相対する。
「ちぃっ……『無限』!」
彼がマント広げると、何十倍もの大きさへと変貌し、私と敵の間を隔てる。
時間稼ぎをしてくれているのか……? でも……この壁を一体どうやって壊せば……⁉︎
床から天井にかけて立ちはだかる壁を、私は見上げる。
浮かんでいく考えは何一つうまくいく様には考えられず、私は再び、ただただ見上げるだけとなってしまった。