第二百三十五話 夢幻の希望
「……は?」
「おかしい……確かにこの場所でホークアイ共に足止めされていたのは間違いねえのに……
どこにも姿が見当たらねえぞ……⁉︎ ……まさか、すでに別の場所に移されていたのか……?」
呆然とする私を横目に、アシナはそんな独り言をブツブツと呟きながら、首を傾げる。
別の場所に移された? ここには初めからサツキなんて居なくて、私達は無意味にこの場所を目指していたと?
……あり得ない。
「そんなことっ……有り得ませんッ! サツキは絶対にここに居ます! 皆さんが命がけで目指したここには、絶対に無駄な事なんて有りません!」
本当にいなかったとしたら、皆の行動は一体何のためだった?
犬死にだなんて、絶対に誰にも思わせない。私がサツキを見つけ出す。
「フ、フレイ……」
「ここは暗いんです。もしかしたら目につかないような端に居るかもしれません。……探しますよ」
「あ、ああ……」
たじろぐような声で答えるアシナを尻目に、私は歩を進める。
「サツキー! 何処にいるんですかー! 私です、フレイです! 助けに来ました! 皆で帰りましょう!」
私は声を張り上げて叫ぶ。
しかし、私の耳元に返って来るのは私の声だけだった。
何度も、何度も叫ぶ。
どれだけ叫んでも、私の気持ちを踏みにじるように静寂だけが返ってくる。
……そんな。
そんな筈は無い。こんな事、あって良いはずが無いんだ……!
「……なあ、フレイ。やっぱりここには___」
「居ます! 絶対に居るんですッ! ただ、サツキはきっと疲れているだけで___」
「居ねえよ! やっぱり……居ねえんだ。何処にも居ない。姿も、声も。こんなに叫んでも何一つ返って来ないじゃねえか」
アシナが、悔しげな声を上げる。
私は、膝から崩れ落ちて俯いた。
サツキは……本当にここに居ないのか?
だとしたら、今後ろで戦っている皆も……全員……。
私は……誰も助けられ無いのか? ただここに着いただけで、それで助かると、何もかも終わると思っていたのに……。
目の前にあるこの黒い壁も、サツキが居なければなんの意味も無い。こんな事なら、最初からここを目指さなければ良かった……! そしたら、誰も死なずに済んだ筈だ……。
私は壁を睨む。何処にもやり用のない感情をぶつける様に、それを一身に恨む様に睨み続けた。
その時、何か、音が聞こえてきた。
とても小さな音で、何か一つでも別の音がすれば聞こえてこないのではないかと思えるほどだった。
「……この音は……?」
私は吸い込まれる様にして、その音が何処から聞こえて来るのか聞き耳を立てる。
「お……おい……」
立ち上がり、聞こえる方へと近づいていくと、それは。
「……壁の……先から……?」
黒い壁の中から、その音は聞こえてきていたのだ。
……よく聞こえない。一体何の音なんだ……?
更に聞こえるようにと、耳を壁につけると。
「……ぅ…………ぁ……」
それは、声だった。すすり泣く様な声で、時々漏れ出る様に聞こえて来る。
そして、その声は確かに聞き覚えのあるものだった。
「……サツキ……⁉︎」