第二百三十三話 離脱
私がそう叫ぶと同時に、下から何かが一筋光る。
その光る何かとほんの一瞬私の身体が重なりあった瞬間。
それは私のスピードを超える速さで繰り出され、気づく頃にはその光は胸元に近づいていた。
まずい……ここまで近づかれたら回避が……!
一瞬そんな思考がよぎるが、考えをまとめる時間すら与えられない。
次の瞬間、私の胸元には。
「はぁ……はぁ……絶対にそんなこと……させない!」
荒い息を吐きながら光を掴み、下を睨みつけているイレティナがいた。
光に見えていた物は矢で、その軸をがっちりと掴み取っていたのだ。
「イ……イレティナ……ありが___」
「アレ……危ないよ。このままじゃ全員やられちゃう……」
私がお礼を言おうとした事に気が付かなかったのか、イレティナは撃ち放ったものがいたのであろう場所を睨み付ける。
すると、イレティナは決心したかのような顔を浮かべ、腰に付いていた筒を掴み、中から何かを取り出した。
それは、全体が黄金に光り、先端の尖りはあらゆるものを貫けると感じられるほどに鋭い。
それは……以前私が見たことのあるものだった。
「まさか……イレティナ……」
「これ一本しかないから落とさないようにしないとね……それに、今は加減しないで大丈夫だから!」
そう言うと、いきなりイレティナはウンディーネからすり抜けて下へと飛び降りる。
「イレティナ!」
彼女が持っていたのは……部族の矢だった。あらゆる物を貫く、特別な矢だ。
あれを持って下に行ったという事は、まさか……あの光速の矢を打った敵を探しに行ったのか……?
敵の群勢が直線を描くようにして次々と道を開けていく。……いや、イレティナが薙ぎ倒しているんだ。
「……私も行って来るわ」
そのイレティナの姿を見てか、ウンディーネもそう呟く。
「ウンディーネ……!」
私は彼女に向かって、不意に止めるような風に言ってしまう。
イレティナのことも心配だったが、私はそれと同時にウンディーネが離れる事に不安を抱いていた。
二つの思いが引き合い、私の言葉は途中で止まってしまったのだ。
どう続ければ良いのか分からず、私がそこで口籠っていると、ウンディーネはこちらへ振り返り。
「……貴方なら出来るわよ。サツキを、助けてね」
そう言って、ウンディーネはイレティナと同じように下へと飛び降りていった。
「ウンディー……あぐっ⁉︎」
飛び降りていき、一瞬にして遠くへとなってしまったウンディーネに向かって私は言葉を叫ぼうとするが、唐突に肩の方へ衝撃が伝わってきて小さく呻いてしまう。
気づくと、目まぐるしく入れ替わっていたはずの風景は、完全に静止していた。
右目の端には綿のようなものが見える。