第二百二十九話 たむろう者
「全員……ですか……⁉︎」
私は思わずウンディーネにおうむ返しに聞いてしまう。
何十もの気配がひしめき合い、その全てが殺気立っていた。
……一体何人いるんだ?
倒した数だって覚えていないし……一、二……いや、戦う事に変わりはない。とにかく大量という事だ。
しかし……どうやって切り抜ける?
敵が一か所に塊っているから、粉塵をあげる程度では逃げることも出来ない。
かと言って、先程と同じように戦っていてはいずれ数に押されて全滅する。
……だったら、やはりこちらも塊って戦うか?
そう頭の中で思考を巡らしていると、それに割り込むようにして激しい打撃音が耳に伝わってくる。
「やぁっ!」
イレティナと痩身の男が、再び戦い始めたのだ。
両者の腕が残像を残しながらぶつかり合う。
イレティナは手刀を繰り出し、次々と男の胴体へ向かって攻撃をぶつけて行った。
対する男も残像が残るほどのイレティナの攻撃を次々と両腕で受け止め、一撃たりとも攻撃を許さない。
攻撃をしていたのはイレティナだったものの、むしろ、男の方が優勢で有るように見えていた。
「くっ……!」
それをイレティナ自身分かっていたのか、強打を加えて男を弾き後退させると、自らも後ろへ跳んで再び間を取る。
イレティナは脂汗を垂らして、男を睨み付けていた。
私も今なら戦える……だが、まだ動けない状態なのだ。
……後ろにいる敵が、未だに動きを見せていない。
こちらを見てはいたものの、全く何もしようとしてこないのだ。
戦っているのはあの男とイレティナだけ……一対一、言ってしまえば正々堂々とした戦いだ。
……いや、彼らが攻撃を加えてこないのはイレティナが劣勢だからだろう。
何十人といる時点で、正々堂々なぞ端から求めていない分かり切った話だ。
どちらにせよ、私の推察は一つだ。
敵が一人だけしか攻撃してこないのは、イレティナだけが戦っているからでは無いか、という事。
今は彼女だけに戦ってもらった方が……。
そんなふうに考えていると、再びイレティナと男が戦い始めた。
しかし、今度はイレティナが圧されている。
男がイレティナの腕を掴もうとしているのを、彼女は一つ一つ間一髪で躱していた。
しかし。
「っぁ……」
イレティナの頭が男についに掴まれた。
私も先ほど捕まれ、全く離すことのできなかったあの腕に。
どうする……? イレティナが抜け出せる事を信じて待ってみるか?
下手に攻撃には出られない。……しかし……
「くぁっ……!」
「っ!」
イレティナを掴む手が更に力を強め、ついにイレティナの頭を握り潰そうとし始めた。
イレティナはまるで抵抗しようとしない。……いや、抵抗できないのか?
このままじゃイレティナが……! ……でも、やっぱり……!
「フ、レイ……ちゃん……」
イレティナは呻くようにその言葉をあげた。
まるで私に助けを求めるかのように、最後の望みのように言う。
その言葉で、私は決心した。
……私らしく無い。仲間を助けないなんて。
「『神滅槍』!」
その叫びと共に、男の上半身を、光の槍が貫いた。