第二百二十八話 駆ける
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背後からオレンジ色の明かりが吹き出し、壁の端にその光が壁に反射している。
「……始まりましたか」
二人の武運を祈りたいが……今一番二人のためになるのは私達がいち早くサツキを助ける事だ。
助けれられたと思ったら否応無しに協力しろと言われるというのもサツキにしてみれば中々にふざけた話だが……。
ともかく、今は自分の出来る最上の行動をするしか無い!
「はぁっ!」
目の前に立ちはだかる敵に向かって、極大の槍を放つ。
噴煙が巻き起こる中を掻い潜って進んでいき、敵を通り越していけた。
翼を広げ、空中を飛んでいく。
遥か遠くに映る黒い壁。あそこまでの時間は精々三十秒程度だ。
着けば、私たちの勝ち……! 後ろからの追手だって来ないはずだ。『絶対聖域』を張って、一瞬間を保てば、後は本当に三十秒程度の辛抱……
「……ん? アレは……」
その時、目の前に新たな敵が見えた。
先程と同じ様に煙を巻き上げて通り越せば、何の問題も無い。
「『無限連撃』!」
粉塵が辺りを覆い尽くし、再び敵の視界を塞ぐ。
真っ直ぐに進んでいき、視界が晴れればもう___
「むぐっ⁉︎」
唐突に、私の両頬が何かに圧迫され、動きを止めてしまう。
いや……これは……掴まれている⁉︎
掴む指を引き剥がそうと、私は顔の二倍はあるのでは無いかという手を引き離そうとする。
しかし、全くと言って良いほど指は離れない。まるで地面に張った木の根のように、私の顔面を掴んで離さなかった。
まずい……! このままだと間に合わなくなる上に、攻撃が飛んでくる……!
「ハァッ!」
その時、イレティナの声が上から聞こえ、それと同時に私を掴んでいた手が離れた。
翼を保つ事を忘れ、私はそのまま地面へと落ちてしまう。
「イ、イレティナ……有難うございます……」
私の目の前に、イレティナが庇うように立っていた。
その先には痩身の男が立ち、イレティナの方を睨み付けている。
私をさっき掴んでいた手……一体何のスキルなんだ……?
……いや、それよりも気にかけるべき事が有る。
何故私を捕らえる事が出来たんだ……? それに、粉塵が晴れた先にいた。
何か特殊な力が隠されているのかもしれない……。
「イレティナ、気を付けて下さい。その男は本来ならばそこに居るはずは有りませんでした。何か奇妙な……」
そこまで言って、私の言葉は止まった。
イレティナが、全くこちらに意識を向けていなかったからだ。
「フレイ……簡単な話よ。何もあの男は瞬間移動するスキルを持っているとか、そういうわけじゃ無いわ」
ウンディーネが、私の背後から語り掛ける。
よく見るとイレティナの見ている方向はあの男では無かった。
後ろには影が群がり、それは。
「まさか……!」
「そのまさかよ。残りの敵……全員ここに固まっているわ!」




