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第二十二話 黒き鎧・再

 ああ、私、ダメだ……

 実はあの時、意識だけ微かに残っていた。


 理解の範疇を超えた意識と身体の反発……。

 私にはあれを使うことがたまらなく恐ろしい。


 もし、万に一つの確率でまた身体が勝手に動いたら?

 また……止めたくても止められなくなったら?


 ……正直、見たくもなかった。

 逃げ出すように走ってしまったけど……


 ……サツキは分かってくれるだろうか……?

 

 夕焼けを眺めて、私は狼狽した。

 その時、突如森の方から黒い鳥が何十匹も飛び上がった。

 

 ……なんでいきなり?

 そういえば、サツキは?もう追いついてもおかしくは無いはず……。


 一抹の不安に駆られる中、再び、森の方から何かを感じ取る。

 それは……叫び声だった。サツキの。


「……サツキ!」


 私は道と森を分ける石垣をよじ登り、森へと入って行く。

 今の叫び声は……どこからの物だった?

 

 鳥が飛び上がった所と叫び声が聞こえた場所はほぼ同じだったはず。

 方角は……


 私は聞こえてきた場所の方向を片手で指し、音の遠さから位置を探る。


 ……1km先、待っててください……


 走る、走る、走る。


 最も早い道順を出来るだけ足を地面に取られないように。


 木々を蹴り、草を蹴り、地を蹴る。


 その時、懐に入っていた機械が地面に落ちる。


 咄嗟に私はそれを拾い、また走り出した。


 なんで私は……これを拾ったんだ?要らないもののはずなのに……


 私に……私にとってこれはなんなんだ?


 その時、道無き道の先に音が聞こえてきた。

 人を殴る時になる音。殴打の音だった。


 目の前が突如開け、その場所にだけオレンジ色の光が入っていた。

 木々がなかったからだ。


 しかし、私にはそんなことを気にする余裕はなかった。

 なぜなら……サツキが青色の髪の男に馬乗りされて殴打されていたからだ。


「サツキ!」


 私は咄嗟にサツキの名を呼ぶ。


「フ……レイ……」


 サツキの声は掠れていたが、私の声が聞こえる程度の意識はまだあるようだった。

 男は私の声を聞き、サツキを殴るのをやめゆっくりとこちらを向き、顔はにこやかだった。


「ん?誰かと思えばフレイちゃんか。お姉さんは今そこで転んじゃって僕が看病していたんだよ」


 この人、何を言って……!?

 いや、それよりも、今私の名前を読んでいた。

 

「嘘をつかないでください。それに、何故私の名前を知っているのですか?」


 私が問いかけると、男の顔は好青年の笑顔から、ゲスの笑顔へと変わった。


「はー……ガキがいちいち首突っ込むなよ。

 コウキからの情報には全く載っていなかったから見逃してやろうと思ったのによ……。

 ん、そういやなんで名前を知っているかっていう質問だったか?それはな」


 男の身体が突如歪み、変貌する。

 変わり果てた姿は見覚えがある。


「僕だからですよ、フレイちゃん?」


 突如として現れたリュウランは、少年がするような顔をせずに、悪魔のような笑みを零していた。


「……なるほど、タケル。自由自在に姿を変える百貌の人間。その噂は森にいた時から聞いていましたが、まさかその噂が本当だったとは……」


 再びタケルは身体を歪め元の姿へ戻る。


「知っていたのか?ガキにも知られているなんて俺も有名になったもんだなぁ。

 そういやこいつは知らなかったようだが?仲間には伝えてやらなかったのかぁ?」


 憎たらしいほどに人を馬鹿にした喋り方をする。

 

「いいえ、まさかこんなところに居るとは思っていなかっただけです。

 あと、私はエルフです。ガキではありません。」


 私はダガーを構え戦闘態勢へ入る。


「おうそうかい。じゃ、そのかわいいおもちゃで俺が遊びに付き合ってやろうか?

 お嬢ちゃん」


 より一層殺意が湧く。

 サツキを苦しめた挙句ここまで敵意を煽るような人間は初めて見た。


「に……げ……」


 サツキが何かを言っているが、気にしている場合じゃ無い。

 サツキの分までこいつを……!


「逃げて……フレイ……!」


 今度は強い口調ではっきりと聞こえた。

 でも。


「気づくのおっそーい♪」


 私の後ろにすでに回られ、頭を蹴り上げられた。


「くぁっ……!」


 頭がぐらぐらする。けど、倒れている場合じゃ無い。


「うううあぁ!」


 ダガーを握りしめ、私はタケルに食らいつこうとする。


 しかし、目の前のタケルは液状化し、私の攻撃は外れてしまった。

 迷いなく、タケルはもう一度頭を蹴る。


「うっ……うう……」


 意識が持っていかれる。僅かな判断力を残して、私は四つん這いに倒れてしまう。


「口程にもねえな。ま、コウキから特に情報も無かった奴だもんな」


 何を言っているのか分からない。意識が……遠のいて……


 その時、私の目の前に黒く、四角いものが落ちてきた。


 ……!機械……!

 これを使えば、サツキを助けられるかもしれない……


 私は最後の意識を振り絞ってそれを掴み、立ち上がる。


「お?何持ってんだ?……手が震えてるぞぉ?」


 私の手は震えていた。……本当に使いこなせるのか、分からない。

 でも……でも……!


「やるしか無い!」


 私は自分の首筋に棘を突き刺す。それと同時に赤い稲妻、黒い霧が溢れ出る。


「くあっ……!ああぁぁあ!」


「フレイ!」


 サツキの呼び声を最後に私の意識は途絶える。

 後には、黒い鎧が残っていた。

フレイの選択の結果はどうなる……?

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