第二百二十七話 精霊剣技
「は……⁉︎ な、何を言っているんですかヴィリア!」
突拍子も無いヴィリアの言動に、私は驚きを隠せないでいた。
冗談でも言っているのか……? ヴィリア一人を置いていくなんて事、出来るはずが無いのに……!
「冗談はよして下さい! 早く私の翼に乗って、どうにかして皆で……」
「フレイ、お前だって分かっているだろう。この状況、誰かがここで抜けるしか道は無いという事を」
ヴィリアはこちらも振り向かずに、静かに語りながら自らの腰に差さった刀を抜く。
……確かに、切り抜ける方法はそれしか考えられない。
……でも……
「でも、何か別の方法が___」
「甘ったれるな!」
ヴィリアの背中から、私の言葉を断ち切るような鋭い言葉が飛んでくる。
空気にまでそれが伝わるように思え、一瞬身体全体に、まるで電流が走るような感覚を覚えた。
……そうは言っても……やっぱり、置いていくなんて事は納得出来ない。
その言葉をどうにかして出そうとしたが、喉が上手く働かずに最初の言葉が出るだけだった。
身体が気圧されて怯んで、声が出なくなっていたのだ。
そのために、誰も何も言葉を発そうとする事は無かった。
そうして数秒沈黙が続いた後。
「……何も、犠牲になるというわけでは無い。お前があの女を救うまでの辛抱だ。だから……任せてくれ」
ヴィリアはゆっくりと、宥めるようにそう言った。
後ろにいた敵の大軍はすでにヴィリアと対峙し、お互いに戦う用意は出来ている。
背中しか見えなかったが、彼女から湧き上がる闘志が浮き上がっているように見えた。
ヴィリアが刀を構え、切り込んでいこうとしたその時。
「本当に……死なないのね?」
サラマンダーがヴィリアに向かって、再びそう聞いた。
しかし、その声色は心配というよりかは、どこか悪戯げな雰囲気を感じる。
「……ああ」
少し間を開けて、ヴィリアがそうポツリと返すと。
「そう。……だったら、私も戦うわ」
サラマンダーはいきなりヴィリアの横へと向かい、そのまま彼女の前へと飛んで行った。
ヴィリアは先程私がした様な、突拍子も無い事を聞いて驚いた声色で。
「は⁉︎ 馬鹿を言うな! ここに残るって事は___」
「だーかーら、死なないんでしょ? だったら、私があんたを手助けしたら死なないどころかここにいる全員倒せるんじゃ無いかしら?」
サラマンダーがそう言うと、ヴィリアはハッとしてやられたと言わんばかりに口を抑える。
……やっぱり、ヴィリアも自分が犠牲になるのを承知で行こうとしたのだろう。
そんな悲しい自己犠牲を見るのは、もう……沢山だ。
……でも、サラマンダーの言葉は、嘘と言えば嘘だけれども……何故だか、やる気に満ち溢れた様な声で。
「……ま、行けるわよ。だからあんた達、先行ってなさい。良い? 五分以内に助けてきてよね! じゃないと私達死んじゃうから!」
やっぱり、強がっているのでは無く、自信を持って言っている。
特に五分以内というところが……どこか、安心できる様な……。
「……そう、だな。五分と言わず三分にしてくれ。それまでは耐えてやる」
ヴィリアも口の端に笑みを浮かべながら、サラマンダーを左手に握りしめてそう言った。
「行って来い! フレイ!」
ヴィリアは先程の様な物悲しげな声では無く、希望にあふれた声で私を送り出す。
私もそれに答えて、精一杯頷き。
「……はい!」
翼を広げ、先へと飛び立って行った。
*
「……行ったか」
「そうとなったら早速やるわよ。アレのやり方わかるわよね?」
サラマンダーはヴィリアに向かって、悪戯げにそう聞く。
「簡単だ。マナを有りったけ注ぎ込むぞ」
そう言うと、彼女の両手が赤く輝きだし、烈火が二人を包み込んでいく。
「今回だけだからね……行くわよ! 『精霊剣技』!」
「『七聖霊』!」
「「『緣焉烈火龍鳳撃』!」」