第二百ニ十六話 足止め
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「はぁ……はぁ……! や、やっと追いつきました……!」
私は若干息切れ気味になりながらも、横で飛ぶ存在に声をかける。
それは剣先を横倒しにして、真っ直ぐと飛んでいく刀……そう、サラマンダーだ。
十数の敵を掻い潜った後、私はなんとかサラマンダーに追いつくことができたのだ。
「……あら? フレイ、そんな息切らしちゃってどうしちゃったのよ? すぐ後ろにいたんじゃ無いの?」
……どうやらサラマンダーは私達が一緒にいたと勘違いしていたらしい。
そこまで気づかないものかと疑ってしまうが……追いついたわけだし、よしとしよう。
「……おい、不味いんじゃないのか……あれ……」
その時、唐突に私の背後から、不安げなヴィリアの声が聞こえてきた。
不思議に思って振り向くと。
「……? ヴィリア、どうしたんです、か……」
私はその光景を見て、唖然とした。
私と同じようにヴィリアが振り返って眺める先には、何十人とこちらを追いかけてくる敵がいたのだ。
「な……なんで敵が……⁉︎ それに、何か近づいてきていませんか⁉︎ さっきまで追いつけてなんて居なかったのに……!」
「あいつらだって腐っても王だ。俺も全員知っているわけじゃねえが、大方スピードを増すスキルでも有るんじゃねえのか……⁉︎」
「そんな悠長なこと言っている場合じゃないでしょー!」
サラマンダーはそう叫びながら、グングンとスピードを増していく。
それに連なるようにして私も更に速く飛び、二倍ほどあるのではないかという速さで飛ぶが。
「……っ! 駄目です! 離せません! 追いつかれるまでの時間は延長できそうですが……」
「フレイ! 前、前!」
後ろを振り向きながら何かないかと考えていると、今度は翼に乗っていたウンディーネが前方を指差して叫ぶ。
一体今度はなんだ……⁉︎
「前がどうし……あっ!」
確かに、予想できた事だった。
速くなればなるほど、次の敵が早くくるという事は。
私達の百メートル先に、新たな敵が見えていたのだ。
百メートル……普段通りならなら時間もある。しかし、こうも速いと時間はせいぜい十秒程度……。
どうする……⁉︎ 後ろの敵に手を尽くしていては囲まれてしまうし、かと言って前を突破しようとすればすぐさま追いつかれて、同じように……。
「……やっぱり、こうなる、か」
その時、ヴィリアがポツリとつぶやく。
その声色はどこか寂しげで、まるでこの事態とは合わないような雰囲気だった。
「やっぱり……?」
「こういう事態になったら、最早全員で行っていてはどうにもならない。……任せておけ」
「……? あの、ヴィリア、それって___」
私がその意味を問うよりも先に、彼女は私の翼を踏み台にして飛び上がる。
地面に降り立ち、彼女は向かってくる敵に対して仁王立ちをしていた。
「私がここで足止めをする! かかって来い! 雑兵どもが!」