第二百二十二話 交代
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「『神滅槍』!」
私の声に応じる様に、光の槍が空間に現れる。
槍は一呼吸の間も与えず、流星の如く目の前の敵の軍勢に理不尽な力を押し付け、轟音と共に辺りを粉塵に巻き込んだ。
僅かに聞こえた怒号や悲鳴、それすらも巨大な槍が圧倒し、沈黙させる。
しかし、次の瞬間。
「はァッ!」
巻き上がる粉塵の中から私の目の前に突如人間が現れ、握りしめた拳で私は腹部へ一撃を入れられた。
「カハっ……! っ! 『無限連撃』!」
痛みで生まれた怒りに身を任せ、私は前方にいる人間に向かって全身を貫く様に無数の短刀を撃ち放った。
一本の巨大な光線にも思える様な量の短刀の最初の一本が男の額に触れ、貫く。
しかし、貫かれたはずの男は血の一滴も流していなかった。
それどころか、頭蓋骨が砕かれる様な音もなければ、苦しむ様子も見せない。
短刀が次々と男の全身を貫いていく中、それに何の反応も示さずに男はこちらへと歩み始める。
おかしい……ダガーは確かにあの男を貫いているはずなのに、ダメージがない。
一体何のスキルなんだ? 刃が刺さっても刺さっても、まるでそこにいないかの様に、幻影の様に通り過ぎていく。
「くっ……!」
男がみるみると私の方へ近づいていく中、私は闇雲ではあったが威力を更に倍にし、男の身体を消し去れるほどの短刀を発射した。
その時、男の身体の端から僅かにしぶきの様なものが上がる。
……しぶき? しぶきが出て、物理が効かない……何か、見覚えがある様な……。
……そうだ! あれは……。
私の頭の中で、ある一人の人物が浮かんだ。この男のスキルは……彼女と同じだ!
男がこちらへ一気に距離を詰め、再び私に拳の一撃を入れようとした瞬間、私はその場を一度離れ。
「ヴィリア! 交代です!」
そう言って、ヴィリアの戦う方へと移動し、彼女の敵へと攻撃を打ち込む。
ヴィリアは私の指示にに頷き、私と同じ様にその場から離れ、私の敵の眼前に立った。
私はヴィリアの敵を相手に、ヴィリアは私の敵を相手にと、交代したのだ。
あの男は、私では倒せない。スキルの正体は分かった。……しかし、だからこそそう断言できる。
……それは確かに事実であるが、それと同時に、私たちは一人では無いのだ。
私は目の前の敵に向かって『神滅槍』を構えながらヴィリアに向かって。
「ヴィリア! その敵は液体です! 身体を自由に液体へ変化させ、物理攻撃は聞効きません!」
そう高らかに叫ぶと、男は苦い顔をし、ヴィリアは一つ頷いて男に向き直る。
「そう言うことなら……簡単だ!」
刀に炎を宿らせ、その刀身を紅炎で包み込む。
それと同時に私も光り輝く槍を敵に構え。
「焼き尽くす! 『七聖霊』!」
「『神滅槍』!」
私とヴィリア、背中合わせにして光と炎が炸裂する。
一瞬にして私の目の前には潰された肉塊だけとなり、後ろを振り向くと。
ヴィリアの立つ先には何もなく、ただ煙を上げる人の影が残るのみだった。




