第二百十四話 発見
「あんなところに人が……⁉︎」
気付くと、すでにヴィリアの出していた水は消えていた。
見知らぬ男は、白髪と黒髪が混ざり合ったような髪色で、評議会の景色に溶け込むような暗い服を着ていた。
服の所々が裂け、吹き出すかの如く燃え盛っていた。
……しかし、何か不自然だ。
「クソが……! なんだよこの炎! いくら払っても消えねえし、体だけを燃やしてきやがるし……!」
男が焦るような声色で、服を使って炎を消そうと仰いでいる姿を見て私も不自然の理由に気がついた。
……そうだ。あの炎、全く周りに燃え移っていない……。
切り傷の様に裂けた服の部分から燃え上がっているんだ……!
「傷だけを炎が燃やす様にした。水の中で正確な位置を割り出すのが大変だったがな……」
ヴィリアは一瞬たりとも目を離さずに、男を睨み据えながら刀を鞘に収める。
「正確な位置……だと? ふざけんな! 俺はてめえからできるだけ離れて泳いだし、音だって立てていなかった! それに、俺が近くにいたなんて分かるわけ___」
「貴様のような下衆の思考など寝ていても分かる。
どうせ、イレティナを見失って錯乱状態になった私達を一人ずつ消していくつもりだったのだろう?」
ヴィリアが眉間にしわを寄せ睨みつける。
その読みは当たっていたらしく、男は苦々しげにヴィリアを睨み返した。
「……さて、貴様の始末についてだが。私がその気になれば一気に焼き殺すこともできるが……」
決してヴィリアは油断していなかった。
しかし、次の瞬間、男は横に倒れていたイレティナにバッと身体を寄せ、顎を掴む。
「っ! 貴様ッ!」
「待ってくださいヴィリア! 今あの男に攻撃してはいけません!」
男がイレティナへ触れた瞬間、ヴィリアは激昂して刀へ手を掛けるが、私は鞘から抜く前に、と彼女を制した。
「……へへ……よく分かってんじゃねえか、嬢ちゃん……。もし俺を燃やそうもんなら、すぐさまこのイレティナちゃんを殺してやるよ……」
やっぱり……か。ヴィリアの言う通り、この男は下衆だ。これぐらいなんてことは無いのだろう。
サラマンダーで攻撃しようにも、ウンディーネに飛んでいってもらうにも、一歩が足りない。
あの男は、迷いなくイレティナを殺す。どうすれば……。
「へへへ……俺はな、評議会のモンだから知ってんだよ。てめえらが何もんなのかをな……フレイ、サラマンダー、ウンディーネ……。こいつと、赤髪の姉ちゃんはあの『死神』の仲間じゃねえ様だから詳しくは分からねえがな……」
男は勝ち誇った様に私達へ侮る様な態度を取る。
しかし、私には、其れよりも許せないことがあった。
「……今、なんと?」