第二百十二話 捜索
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あれから小一時間、私達は新たな道を見つけていた。
あのマントの人を見失ってすぐ横に有った道だったために、ここを調べるべきだろうとなったのだ。
道の広さはやはりとてつもない物で、若干広すぎるのではないかと頭の中でふとそんな考えがよぎった。
しかし、先程の場所とは違い、壁に並び立つようにしてドアが整列し、なんとその奥には部屋まで有ったのだ。
しかし。
「……やはり、ここにも人が居ませんね……」
いくらドアを開けても、あるのは薄暗い空間と様々な家具だけだった。
そして、今回も……。
部屋の壁は外のものと同じ金属製で、家具は安楽椅子とベッドのみ。
……それと、何故か壁が一部だけ激しくへこんでいた。
しかも、へこみ具合からして衝撃は一度しか加えられていない……。
つまり、何かがとてつもない威力でこの壁に攻撃したかぶつかった、と言う事だ。
この金属はイレティナの脚力にも耐えた物なのに、こうも酷くひしゃげさせる人間が居るのか……?
……しかし、やけに殺風景だ。他の部屋はまだ生活感があったと言うか……ここだけ、何か不自然に感じる。
「……ねえ、一つ前の部屋って、もっと色々有ったわよね? 鏡とか、テーブルとか……」
「一つ前だけじゃない、今までの物全てだ。確実に誰かが長い時間生活しているような空気だったが……ここは違う。日が浅い」
サラマンダーの言葉に連なるように、ヴィリアもこの部屋の異様な雰囲気を感じ取っていた。
日が浅い……か。まさか……サツキがここに居たのか……⁉︎
「あの……! ここにサツキが居たって可能性は……」
「フレイ、焦る気持ちはわかるけども、期待をするのはやめておいた方が良いと思うわ。
あの壁のへこみ……もしかしたら、すぐに部屋を壊しちゃうような暴れ者という可能性だってあるのよ」
ウンディーネは、多少否定的とも思えるような反発をした。
だが……ウンディーネは私の声が少し弾んでいたことに危機感を持ったのだろう。
下手にこんな所で浮かれていては、ぬか喜びの方が多いに決まっている。
だから、ウンディーネは私に期待をしない方が良い……と、言ったのかもしれない。
「……そう言えば、イレティナ、どうしたんですか? さっきから全く返事をしませんが……」
私はふと気になり、イレティナに呼びかける。
しかし、ウンディーネとヴィリアがキョロキョロとイレティナの姿がないかと見回すだけで、イレティナの返事は全く聞こえてこなかった。
「……イレティナ?」
イレティナが、居ない。
血の気が一気に引き、私はイレティナを探そうと必死に辺りを見回す。
「イレティナ! イレティナ⁉︎ 返事をして下さい!」
どこにもいない……!
一体どこへ⁉︎ 連れ去られたのか⁉︎ だとしたら、敵は……
「落ち着け」
私の肩をヴィリアが、優しく手で抑える。
「ヴィリア……」
まるで問題ないとでも言うように、堂々とその場に立っていた。
……しかし、どうやってイレティナを……?
「満たすだけで人間を殺せるものは幾らでもある。苦しみの声を炙り出してやれば良い」
気づくと、ヴィリアの手には青い光が宿っていた。見覚えのある、透き通るような青い光だ。
「……まさか! ウンディーネ、サラマンダー、私の所に来て下さい! 特に、サラマンダーは気を付けて!」
「ああ、抑えは効かないからな……! 行くぞ……『七聖霊』!」