第二百八話 追走
……マント……怪しいな。
「サラマンダー、火を切ってください。そのマントの人物を追いかけます」
「ん、追いかけるの? 戦うのは避けた方がいいんじゃ無い?」
サラマンダーは火を消しながら私に問う。
確かにマナは出来るだけ節約して戦いたいが……。
「恐らく、私達の姿を見られています。あのまま放って置いたら、何十人と人がやって来ます……」
それだったら、あの一人を始末した方が遥かに効率的、と言う事だ。
それに、サツキのことを何か知っているかもしれない……。
何十人も相手にするのは流石に厳しいと思ったのか、ウンディーネとヴィリアは神妙な顔をして沈黙していた。
「……だったら、早くアレを追いかけましょう。でも……一体どこに行ったのかしら……?」
ウンディーネは焦りげになりながら辺りを見回す。
多少目も慣れて来て、ウンディーネも私も、景色が若干わかるようになって来たのだ。
目を凝らしながら風景を見ようとすると、私達の前方にT字路のような物が見える。
恐らく、そのどちらかの方へ逃げた筈だが……。
「右だよ」
なにか無いかとその場を観察しようとした時に、背後からその言葉が聞こえ私はハッとする。
「右の方にいったよ。私が振り返ってから逃げたみたいだし、きっと追いつけるぐらいの距離だと思う」
「……右で、間違い無いんですね?」
私が再度確かめると、イレティナは黙って一度だけ頷く。
また先の道が分かれている可能性もある。一刻も早く追いつくべきだろう。
私は首に『機械仕掛けの神』を突き刺し、次々と出てくる白い光を自分の背に当て、『仮神翼』をいつもよりも二倍ほどの大きさにして生やした。
「全員乗って下さい、私の『仮神翼』ならマナも消費しませんし、一番速い方法です。
さあ、早く!」
私が急かすようにして叫ぶと、イレティナ、ヴィリア、ウンディーネと次々と翼や肩にその体を預けていく。
多少重いが……飛ぶことに支障は無い。
絶対に、追いついてみせる!
「『天駆脚』!」
私の足へ白い光が集中し、脚部全体を覆うようにして装甲が作られる。
『天駆脚』、周りに作った装甲が、筋肉の役割を担うことで脚力が数倍に跳ね上がるのだ。
私は体を屈ませ、片膝を地に近づけながら前傾姿勢を取る。
地面に足がしっかりと付いていることを確認し。
「皆さん、振り落とされないでくださいね……!」
そう言い、強く地面を踏み込む。
次の瞬間、私はまるで落下していくかのようなスピードで空を飛んでいた。
しかし、もちろんのこと落ちているわけでは無い。時速何千キロ出ているのかは知らないが、一本道を私は暗闇の中飛んでいるのだ。
……まだ見つからない。一体どれくらいのスピードで相手は逃げているのか……。
だが、どんなスピードだろうとそろそろ見えてくる筈だ。うっかり見落とすなんて事はできない。
「そろそろ見えてくる筈です! 皆さん、見て置いて下さい!」
風に声を拐われないようにと声を張り上げて叫んでいると、ふと遠く先に今までとは明らかに違う物が見えていた。
壁や床が私たちへ近づき、すれ違うスピードとは違い、その見慣れない物は近づいてくるのが遅く、また何か動きながらこちらを振り返ってくる。
つまり、アレは走っている。私達へ近づいてくるのが遅いと言う事は、その分逃げていると言う事なのだ。
「フレイ! アレは……!」
「居ました! 確かにマントのような物があります! 後は捕まえれば……!」