第二百五話 孤独の焦燥感
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くっそ……いったいどのくらいの時間戦ったんだ……?
体感時間がぶっ壊れていなければだけども、きっと丸三日は戦っているんじゃ……。
『万物理解』で時間でも聞いてみるか……?
いや、いまの私には無理な話だ。最早そんな風に分けてやれる集中力は何処にもない。
「っしゃぁっ!」
唐突に目の前から人影が突進してくる。
正確には、何も視界には写っていないわけだが。
「ちっ……今度は『透明』か何かか……⁉︎」
人影が私の身体に到達する数コンマの間で、鋼鉄と化した足を私はそいつに向かって叩きつける。
しかし、人の肉体とは思えない硬さの何かに私の一撃は阻まれ、鉄と鉄がぶつかり合うような音が鳴るだけで終わってしまう。
「ひひひ……」
不気味な笑い声を残して、後ろに下がったのであろう人影は再び探知できなくなった。
……十数時間、ずっとこれだ。どこからともなく奇襲をかけられ、私が一撃喰らうか、食らわせるかするだけであの人影は気配を消し、また隙をついてやってくる。
しかも、私を中心に一メートルほどの空間しか、私は目視ができない。
『煌光』で照らしてはいる物の、また別の転生者の力なのか闇に閉じられてしまっているのだ。
……おかげで、三百六十度、常に警戒をしなきゃいけない。身体の方はいくらでも治せるが、ここまで長引くと、集中力も薄れてくる。
……それに、ここから出ることができないのだ。ちょっとでも闇の中に入ろうとすると、一気に身体のほとんどが持っていかれてしまう。
見る前に食らわされてしまってはこちらもコピーのしようが無い。
……ホークアイめ。一体私のためにどれくらいの人員を割いているんだ……?
十人か……?いや、そんな量じゃ無かった。だったら……百人?
……あり得てしまう話だ。あいつは余程私の力が欲しいようだし、ここから出られないと思い込ませて、私を再び仲間に引き入れるつもりなのかも……。
……だが、これは逆に良い事だ。百人も割かれていれば、きっと彼女達の旅路も楽なものになるだろう。
……彼女、達?
僅かに残った思考する力が、そこで一瞬凍結した。
……待て、彼女達って……誰のことだ? 名前が、思い出せない。姿は……ぼんやりとしているけど、分かる。わかるんだ。
私は冷や汗が出るのを感じながら、自問自答を続ける。
思い出せない。まるで頭に霞がかかったような……
その時、ふと私の中に一つの考えが走った。
……まだ姿こそ思い出せるけども、……また、記憶を消去された時のように何も思い出せなくなるんじゃ……? そしたら、私はまた何も分からずにこいつらの仲間に……?
最悪だ、自分の考えた物の中でも、一番吐き気のする、思い付きたくもない、最低で最悪の結末だ。
……でも、否定はできない。それがあり得ないことだと言う事を。
最悪は……もう私の目の前にきているんじゃないのか?