第二百三話 その姿が、人を追いかけさせる
「……」
イツは神妙な顔をして私を見つめる。
こちらを見つめ続けていると、少し頷き。
「ほれ」
そう言って、いきなり手に握っていた機械を私の方に投げた。
「えっ⁉︎ わっ、わわっ……」
私は慌てて身を乗り出して、ゆっくりと弧を描く立方体を自分の手に収める。
……何も怪しい部分はない。本当に、渡してくれたのか……?
「ど、どうして……?」
イツに向けられていた二本の槍がかき消え、私は理由がわからず、イツへ問いた。
「お前の気持ちが、俺の心に響いたからだ。それほどの気概が有るなら、もしかしたらあいつを助けられるかも知れねえ」
口元に笑みを綻ばせ、イツはウンディーネと私を見る。
……奪う、ではなく貰うと言う形で終わって嬉しい。
イツが納得してくれたことも嬉しくなる理由ではあったが……それ以上に、イツに認められた気がする。
……今なら本当に、あのホークアイだって目ではない、簡単に倒せてしまいそうな気分だ。
「……ありがとうございます、イツ。早速、評議会へ___」
「待たせたわね、皆! 私とイレティナで作った熊の炙り焼きよ!」
私達の横から、サラマンダーの元気な声が聞こえてくる。
そちらの方を見ると、熊だったのであろう大きな肉が湯気を上げて焼き上がっていた。
脂が肉から染み出し、下に敷いてあった木の葉にもわずかに垂れている。
「これはまた……大きな肉ですね……!」
「そうでしょ⁉︎ サラマンダーちゃんがいてくれたから、綺麗に焼けたんだ! ……って、それ何持ってるの?」
自慢げに目を輝かせて語るイレティナだったが、私が手に握っている機械を見ると、不思議そうな顔をしてこちらへ質問をした。
サラマンダーも聞いていなかったはずだし、二人に説明するべきだろう。
「これは……評議会へ通じている物です」
「……は⁉︎ それ本当⁉︎ 嘘じゃないでしょうね⁉︎」
サラマンダーは一瞬ポカンとした後、こちらへ詰め寄って疑う。
だが、私が黙って見つめ返すと、サラマンダーも本当と理解したのか、何かを思案し始める。
一方イレティナはあまり理解ができていないようだった。
イレティナは、私達がサツキを探していることを知らないでここまで一緒に来ていたのだ。
私が目指す先を何も言わずに怪しむようにも思わず、ただただ助け続けてくれていたのだ。
……今思い返すと、何か騙していたような気分にもなってしまうが……。
「……イレティナ、私達はこれから、この旅の目的地へ行くんです。でも、そこはとても危険な場所で、生き残れるかも怪しい場所なのです」
「……お父さんの時よりも危険なの?」
「……はい。ですから、サラマンダーとウンディーネ、それから私だけで行きます。イレティナはここで待っていて下さい」
これは私達が、もっと早くするべきことだったのだ。誰かを巻き込むことは、決して___
「嫌!」
「……え?」
「友達が帰ってくるのを待つだけなんて私嫌だよ! フレイちゃんの力になれるなら私、全力で頑張るよ!」
イレティナは必死げに私に向かってそんなことを言う。
「で、ですが……!」
「お前らが死んだら、元も子もないだろう? あの女を助けたいと言うなら、私達に助けを求めたらどうなんだ?」
悪戯げに笑いながら、ヴィリアもイレティナと同じことを言う。
……確かにヴィリアの言っていることは正しい。サツキを助けるだけならそれが一番だ。
でも、人命を犠牲にするなんて、そんなこと___
「同じ気持ちなんだよ、お前とこいつらは」
「イ……イツ……」
「お前がサツキを助けるために命をかけているのと同じくらい、こいつらもお前にそう言う気持ちを持っていると思うぜ」
……私と、同じ気持ち……?
「お前がサツキを追いかけていたように、こいつらもお前の力になりたいって思っているはずだぜ?」