第二百二話 冒険
「まぁ、とにかく今は行かない方が良いってこった。何か勝ち筋が見えてからじゃねえと、行くのはやめ……おい、フレイ。……なんだ、それは?」
イツは自分の言いかけていた言葉を止め、私の方を怪訝な顔で見る。
警戒をするような視線だったが、無理もない。何故なら。
「……イツ、黙ってそれを渡して下さい。さもなくば、私の『機械仕掛けの神』があなたの両手を再起不能にします」
私とイツの間に槍が二本、刃の先をイツに向けて浮かんでいる。
今は一刻を争う事態だ。多少手荒でも、目の前にチャンスがあるなら逃すような真似はしない。
イツは一瞬私の方を見ながら無表情になると、目を伏せ。
「……俺を脅しているつもりか?」
「ええ、そうです。あなたの選択肢は、私にそれを渡すか、それともその大切な手を失うかだけです。
逃げようとしても、これくらいの大きさの空間なら即座に密閉することも可能です」
厳しい口調で真っ直ぐと見て、私は改めてイツに言う。
ウンディーネもヴィリアも、横には居たものの私を止めようとはしなかった。
ヴィリアは今止めに入っても押さえつけるのは難しいと思ったのかもしれない。
ウンディーネは、出会ってすぐのイツにこれといった情も無いはずだし、結果的にあの装置が手に入るならそれが一番好都合なのだろう。
私は……少なからず同じ時間を過ごした仲間に、こんな事はしたくない。
出来るならばしっかりと話し合い、何とか平和的に終わらせたいのだ。
だが……今は状況が違う。あと二日も無い今の状態で、イツを説得するのは私の精神の方からして難しい。
時間制限のせいで焦っているのかもしれないが、これが一番得策だと……信じたい。
「……ひとつ聞きたいんだが、どうしてそこまで焦るんだ? サツキも何かに操られているようだったし、それを解除する手立てが必要だ。仮に見つかったとしても、評議会に対しての対策もなしに行くのは……さっきも言ったが、自殺行為だ」
イツも穏便に済ませたいのか、私へ質問する。
「それは……サツキがあと二日弱……時間にしておよそ残り三十六時間ほどで、死んでしまうからです」
イツは私の言葉を聞くと、目を丸くして驚くようなそぶりを見せた。
……そう言えば、イツにはまだ伝えていなかったか……
「……なるほど? 時間に限りがあるってわけだ……。だが、それでも簡単にねじ伏せられちまうかもしれないんだぜ?」
「それでも……行きます。
私もサラマンダーもウンディーネも、サツキがいなければ出会うことは有りませんでした。大変なことも多かったです、……ですが、それ以上にここまでにロマンのある、夢のような冒険のひと時をサツキは私にくれたんです」
「……」
「ですから、この冒険をここでは終わらせたくありません。また四人揃って、あの時に止まった時間をまた動かしたいんです!」