第十九話 精霊サラマンダー
「ウンディーネ!あんた何よその言葉!
あーもーっ!あったまきた!
あんたなんて私の手にかかればすぐ蒸発するんだからね!」
刀(に宿った精霊)は、体をぶんぶんと振り回し非常に怒っているようだ。
それに対し、青い精霊は。
「ふっ。あなた、そんな身体でどうやって私を倒すつもりかしら?
あらごめんなさい、あなたのおつむじゃそこまで考えられなかったかしら?」
見下すようにして嫌味たっぷりに言う。
精霊は、スラ吉を土台としているためか身体全体が青く透明な色をしている。
女性の体にドレスのような物を着ているが、やはりそれも透明である。
「きーっ!この高慢ちき貴族気取りめ!
いいわ!この人間に戦ってもらうしかないようね!」
そういうと、刀は振り返ったのか刃を私に向けた。
「え、嫌ですけど……」
私は若干引いた。
流石になんもしていない人を切るのは嫌だし……。
「はぁ!?な、なんでよ!?」
「そんなこともわからないのかしら?
やっぱりおつむが弱いのね!私みたいにもっと知的に____
『なんだこの身体?なんでオイラ人間の格好してんだ?』」
突然、精霊の口調が変わった。
いや、というか別人のような……?
精霊は一つ咳払いをし。
「……私みたいにもっと___
『おお!綺麗な衣装だなあ。顔はどんなことになっているんだ?』
あんたちょっと黙りなさいよ!」
空へ向かって大声でキレた。
「『黙るってったってここはオイラの場所だぞ!出てくんならおめえが出てけ!』」
表情が一瞬にして変わる。
まるで一人芝居をしているみたいだが……。
「ププーッ!あんた主導権半分持たれてんじゃない!
命に宿ったりするからそうなんのよ!あんたもおつむ弱いのねぇ!」
刀は刀で馬鹿にして笑う。
半分主導権……命……?それってつまり……
「スラ吉!?」
「『おう、サツキ、フレイ!こいつ誰だ!?まるでわかんね!』
私はウンディーネ、精霊ウンディーネよ!
あなたに宿ったのは申し訳ないんだけど、ちょっと引っ込んでいてくれる?
『んなのやに決まってんだろぉ!オイラの身体だぞ!』
いいえ、私のよ!
『オイラ!』
私!」
ウンディーネとスラ吉が言い争っていると、入り口の方から灯りのような物が見える。
「おーい、フレイちゃーん。騒がしいけどどうしたの?」
おぉっと、やっべ!
私は刀を鞘にしまい、スラ吉を『収納』する。
鞘の中から『暗いんだけど!』と聞こえてきた。
「フレイ、後は任せた!」
そして、『気配遮断』を使い私は身を隠した。
程なくして、リュウラン君がやってきた。
「い、いえ、少し転んでしまって。怪我はないので心配要りませんよ」
フレイは愛想笑いで必死に取り繕っていた。
「さ、ついたよ。お姉さんは何処かな……?」
二人がやってきたのを見計らって、見えないところで『気配遮断』を解除する。
「やあ!フレイ、楽しんできたかい?」
私は角を曲がって、今まさにやってきたかのように振る舞う。
「はい!精霊さん達が沢山いて、楽しかったです!」
フレイはウキウキといった感じで顔を綻ばせた。
「では、僕はこれで。さよならー!」
リュウラン君が手を振り、私たちも振り返した。
「……ふー。ひとまずどうにかなったかな……?」
私は息を吐くと、刀が震えていることに気がついた。
「あ、そうだそうだ。まずはこっちの方から話を聞こうかな」
私が鞘を抜くと、飛び出すようにして刀が出てくる。
「ぷはー!あんな狭くて暗いとこもう懲り懲り!
二度と入れないで頂戴!」
刀はぷりぷりと怒って抗議をする。
「ごめんごめん、今度からは気をつけるよ。
ところで君の名前は?」
私は手を後ろに回し、体を反らせて聞く。
「私は精霊サラマンダー。炎の力を持つ精霊よ。
……にしても、この身体状態がいいわね。
私の美しい姿が見せられないのは癪だけど」
「なるほどね。じゃあ、次はウンディーネさんだっけ?
『収納』から出して上げなきゃ……」
私がスキルを使おうとすると、遠くから何か声が聞こえてきた。
たくさんの人の声だ……一体なんなんだろう?
「サツキ、どうしたんですか?」
「……ちょっと胸騒ぎが」
そう言い、私は声のする方へ進む。
「ここか……あっ!」
見ると、大勢の14〜17くらいの子供達が、小さな男の子を囲んでいた。
手にバットを持っている人もいれば、足に何かをつけている人もいた。
その子供達は笑いながら、ぶつけて……遊んでいた。
「……何あれ?いじめてんの?」
私がぽろっと一言呟くと。
「ああいう事もあるのよ。あんた、気に入らない?」
サラマンダーは私に聞いてくる。
「もちろん、今からでも止めに行く。」
私が怒りを込めてそういうと。
「……合格。あんたが何も感じないなんて言ったらぶっ飛ばすところだったわ。
あんたを持ち主として認めてあげる。行くわよ!」
サラマンダーの刀身の赤い模様が一層赤く輝く。
私はバットを振り下ろそうとした青年にすぐに近づき、バットを片手で受け止める。
「あん?なんだ姉ちゃん」
「やめろ」
私はギロリと睨みつけ低い声で言う。
その瞬間、囲んでいた子供達は大声で笑い出す。
「ぎゃははは!馬鹿にすんじゃねえよ!あんたみたいな小さな奴にぶへっ!」
バットを抑えていない片手で私はアッパーカットを繰り出す。
青年はそのまま倒れて地に伏せた。
握っていたバットをそのまま砕き、私は一言呟く。
「かかってきなよ、クソガキどもが」