第一話 私の一日
主人公達の物語の途中を一話では書いていきます!
短剣と棍棒が激しく衝突し、辺りに木片が飛び散る。
私の仲間の彼女は片手が塞がっているにも関わらず、その脚で周りの敵を払い除けた。
敵の名は、ゴブリン。半分絶滅しかかっているが、人はそれを気にも留めない。
むしろこの危険なモンスターを根絶やしにしてしまえと、今日もこのような依頼があるのだ。
鍔迫り合いをしていたゴブリンを力任せに跳ね返し、地面に倒れる前に彼女は切り裂く。
出番が無ければつまらない。私はあくびをして暇を持て余していた。
その時、彼女がゴブリンと戦う隙間を縫い、奴らはこちらの方へと迫ってきた。
「サツキ!そっちにゴブリン行きましたよ!」
私はその言葉を聞き、心を踊らせた。
「待ってましたとも! 蹴散らしてやる!」
私は彼女、白髪の少女の声を聞き、魔法を練り込む。
合わさる手の内で紅い光が反射し、揺らめく炎が漏れ出る。手の中ででそれがいっぱいになると同時、私は目の前に迫る顔に手を突き出した。
「『ファイア』!」
その瞬間、私の掌から炎が吹き上がる。ゴブリン4、5匹は容易くその身を炎に包まれた。炎が現れる時間は僅か一秒弱。それにも関わらず、ゴブリン達の緑色の皮膚は、炭一色と化していた。
これで討伐数は目標30体行ったかな…?
ギルドの討伐クエストに置いて、目標数をクリアする事は大幅なボーナスにつながる。
貧乏人の私達にとっては生きて行くための生命線だ。
「フレイー!今討伐数は?」
「ちょっと待ってくださいね……ええと、今のを足して32体です」
彼女は何かを弾くように手を動かす。計算をするときの癖だ。
しかし、私は貪欲だ。そんなものでは満足しない。ボーナス分加算を考えて、三匹も倒せば三食と一泊分くらいの金になる。
「……ねえ、もうちょっと倒していかない?依頼クリアのついでにさ」
私はお金欲しさに聞いてみるが。
「ダメですよ。これ以上ゴブリンを討伐したら生態系が崩れてしまいます。ほら、早く戦利品持って帰りますよ」
と、断られてしまった。
「ちぇ」
半分壊れかけている生態系よりも、明日のご飯が心配だってんだ。
つい最近までフレイは森に住んでいた。いわゆるエルフという種族なのだが、価値観が随分人間と違う。
沈み行く夕日が、地平線から橙色の光を私達へと注いでいた。フレイの輪郭が眩く光り、それとは反対に内側が暗い陰となっていた。……ほんと、エルフなんて存在しないと思ってたのに。
そんな姿を見つつ私は心の中で愚痴と呟きを零して、町へと帰ったのだった。
いつもと変わらない、私の一日。最近やっと慣れて来たが、それにしたってこの世界は随分と殺しがそこら中にある。
まあ、元の世界に帰りたいなんて思うわけではないんだけど。
「はい、依頼達成分と、ボーナス2匹分。合わせて5万3千オウルです」
町へ戻った私達はギルドから報酬を手に入れ、夕食へと取り掛かる。
「今日はどの食堂行くのさ」
「そうですねえ…あそこの大衆食堂なんてどうでしょうか」
そう言いながら、フレイはこの町で最も安い1皿400オウルの店を指差す。
非常にリーズナブル。安い、遅い、マズイの二束三文三拍子が揃った店だ。
「……あー! あー! もうやだ! もう嫌だ! もう沢山だ!」
「ひっ⁉︎ な、なんですかいきなり⁉︎ と、というか街中でやめて下さいよ! 変な目で見られてますよ⁉︎」
身体を道に放り投げて地団駄を踏む私に、見てはいけないものでも見たかのような怯える表情でフレイは必死に私を説得する。
だがやめない。断じて止めるつもりはない。これを止めたら私の人間ランクが最低値を振り切って最早家畜の仲間入りだ。
「昨日もあそこで食べたし、一昨日もあそこだ! 私はもう食べ飽きたよ! もっとバリエーションってものは無いの⁉︎ というかマズイ! 単純にクソマズイんだよ! まだ小さい頃食べたドッグフードの方がマシなぐらいなんだよ!」
食とは文化だ。飽食の時代に生きた私に摂食はあり得ない選択である。
いやそもそもの話これ別にこの世界だからオーケーってわけじゃない。だって私たち以外の客全然来ないんだもん。
「ドッグフードってなんですか……。しかし、そうは言っても……毎日の稼ぎが5万から6万なんですよ。宿代、浴場代、食事代、その他諸々で私達の日々の貯金は精々1万です!旅人なのでまだ税の徴収が少ないのが唯一の救いですよ……」
彼女はため息をこぼし、家計を任される人間のような顔をしていた。
「うぅ……でも食事へのこだわりは欠かせないよ……人間そこを見失ったらおしまいだ……」
「ちゃんと食べて寝ていられれば滅多に死ぬことなんてありませんよ。
次の町に行けばどうにかなりますって。ほら、行きますよ」
そう言われ、私は脚を運んで行った。
「くぅ〜っ!餃子とビールはやっぱり合うね!すみませーん!ビールもう一杯!」
私は餃子を食べながらビールの追加注文をする。
この世界はどうも前世の食物が多い。
ただ、度々聞き覚えの無い名前で名付けられている物も有る。
名が通じないこともあるのでそこは探らねばならない。
「馬鹿言わないでください!そんなお金ありませんよ!それにその、餃子……ですか?」
怪訝な顔をしてフレイは私が箸でつまむそれを眺める。
「よく食べられますね……匂いがキツすぎて私にはとても……」
「匂い……ニラかな? フレイって鼻が良いんだね」
「エルフですから」
「ふーん……」
そう言いながら私は餃子を頬張る。
「ああもう、口についてますよ」
私はフレイに口元を布切れで拭われる。
その日は、そのまま宿に行き、私達は倒れるようにして眠った。
「ふぁ……よく寝た……」
目覚めると、日はすっかり上り、道にも人が行き交っているのが見えた。
「あらら……かなり寝ちゃったみたい」
独り言を言っていると、後ろからぶつぶつと声が聞こえて来る。
なんだぁ……?
そう思い、振り返って見るとそこには寝具の上に膝を丸めたフレイがいた。
「不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔……」
フ、フレイ……!
「どうしたのさフレイ、そんなに辛そうにして」
そう言うと彼女はこちらにぐるりと首を回し、眉を吊り上げる。
「サツキ、わからないんですか!?私達昨日お風呂に入っていないんですよ!?」
……あ、そんなこと……?
大して困ることでは無い。
「大丈夫だよ。一日お風呂に入っていないぐらいじゃ人は死なない」
「精神が死んでいくんです!さあ!ギルドは後回しです!すぐ行きますよ!」
「えぇー!?朝風呂なの〜?」
私はそのまま引きずられ、風呂屋へ行くことになった。
「フフンフフンフンフン……♪」
フレイは心地良さそうに布で脚を撫でる。
というか、そのリズム良い湯だなとか言いそうなんだけど……。
「フレイー、上がったらコーヒー牛乳買ってよ。君のお願いで来たんだから」
「まあ、それくらいなら良いですよ。一本だけですからね。他は買いませんよ」
「だからね、これからはもっとドデカい依頼を受けない?達成だけで数十万行くような!」
私は空の牛乳瓶を片手に持って話す。
「そうは言っても、そこまでの依頼なんて、ダンジョンのボス討伐やら賊の頭を始末するような物ですよ。
あなたのスキルでも無理があるでしょう」
「私はある程度休める日があるくらいのお金が欲しいんだよ!…ん?なんだこれ。」
何かを蹴ってしまったのか、下を見ると、ダンボールとそこに入っている液体のような生物を見つけた。
「あ…捨てスライムですね。ペットとして一時期流行したは良いものの、繁殖力が強く飼えなくなりこうやって捨てられることが多いんです」
「え…これって飼えんの?」
手の上に乗せ、私はその青いスライムを見つめる。
「飼うことは可能ですよ。
しかし、さっきも言った通りスライムは弱小故に繁殖欲旺盛、一度に生む数はおよそ200匹です」
「うーん…生ませないように努力はするよ」
「私は別に構いませんよこんなに可愛いんですから」
フレイは顔を近づけ、にへらと顔を緩ませる。
「そういえばさ、馬車を出すお金って今どれくらい貯まってんの?」
「え…ああ、確か10万程でしたかね」
「馬車を出すには目標地点まで48万必要らしいね…ってことは、あと38万オウルか…」
私達はとある場所を目指している。この片田舎から遠く離れたこの国の王都、サンフォードだ。
その理由は何か。出稼ぎ? 娯楽? どれも違う。
私達は、王を殺すために王都へと向かう。それが、全ての王を殺すための第一歩だ。
何故こんな事をしているのか? ……それは、私が転生したあの日にまで遡る……。
次回よりこの話以前を2話分書いていきます。
オウルはこの国の通貨です。
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