第百九十七話 一時の安息
「いやっほー!」
「あでっ!」
突如として、歓喜する声と共に猛烈な衝撃が私の後頭部に直撃する。
豪速球の玉を投げられたかの様な痛みに若干涙目になっていると、その痛みの主、サラマンダーが申し訳なさそうに。
「あっ! フ、フレイ大丈夫⁉︎ 私少しはしゃぎすぎてたかも……」
「い……いえ、今は治ってくれて本当に良かったです。私の事は気にせずどんどん飛んでください」
後頭部を抑えながら、私は苦笑気味でサラマンダーが気にしない様に言った。
「んー……ま、ちょっと鞘の中にいるわ。最近ずっと抜身だったけど、ちゃんとあるわよね……?」
「ああ、はい。ちゃんと此処にありますよ」
私達が無くしてしまったのでは無いかと不安げなサラマンダーに、私は懐からサラマンダーの鞘を取り出した。
それを見るなり、サラマンダーは鞘の隙間目掛けて直進すると、キンと音を立てて鞘に収まり。
「はー……やっぱりここが一番落ち着くわね」
気の緩んだ声で、だらんとした風に言った。
……二人とも、治って本当に良かった。
緩い調子のサラマンダーに、私も釣られて気を抜いてしまうが、まだ駄目だと、そこでもう一度引き締めた。
「……さて、これで二人とも、無事治った訳ですが……まだ、課題は残っています」
私がそう言うと、ウンディーネも真面目な表情をしてこちらを向いていた。
そう、まだサツキの居場所が分かっていない。どの様にして探すか、そこが問題だが……。
「まあ、ひとまず一息ついたらどうだ? そこの精霊はともかく、フレイは朝から何も食べていないはずだろう」
その時、少し離れた場所からヴィリアが地面にへたり込んでそんな事を言う。
「……あの、どうして地べたに身体をついているんですか?」
「見てわからないか? 軽度のマナ切れだ。少しすれば治るだろう」
……なるほど。あれだけマナを浪費すれば倒れるのも当たり前か……。
そう考えていると、唐突に私の腹からぐう、と音が鳴る。
……ヴィリアの言う通り、私もかなりエネルギーを消費していたみたいだ……。
ひとまず、何か食べよう。果実があったはずだけど____
そう思い、辺りを見回して自分の後ろへ振り返った瞬間。
「ただいまー!」
日の光がさす岩の入り口から、元気な声が聞こえてくる。
まさか……。
そう思った矢先、案の定予想通りの人間の姿が現れた。
褐色の肌に様々な肌への刺青。間違いなくイレティナの姿だった。しかし。
「おかえりなさ……ん? イレティナ、それは……」
イレティナは、何かの影に覆われていたのだ。しかも、何か茶色い、モフモフとした見た目のものを片腕に抱えて。
「熊!」
私の問いに、イレティナは自身ありげに堂々と言う。
確かに私はイレティナに栄養となる様なものをとってくる様に言った。
言ったが。
「……今……何と?」
信じられずに、私はイレティナの言った言葉を聞き返してしまう。
イレティナはそんな私のことも気にせずに、再び自信満々に。
「熊獲ってきたよ! 焼いて食べよう!」
そう、満面の笑みで言ったのだった