第百九十五話 復活
ウンディーネは即座に言うと、血が滴り落ちる私の腕へ迷い無く手をかざす。
ウンディーネの身体全体に一瞬雷の様な模様が走り、その模様の上をなぞる様に青い光が充填されていく。
その光は彼女のかざす手のひらの一点へと逆再生をするかの様に集まって行き、次々と私の方へ滴の如く落ちていく。
これは……マナなのだろう。
落ちるたびに、私の身体に浸透していく様な感覚を覚える。
まるで枯れた大地に与えられた水の様に、癒され、満たされるのだ。
しかし、この甘い感覚にもそう長くは浸っていられない。
私がやるべき事をすぐに遂行しなければなら無い。
そう思い、私は右手から石を手放し、懐から『機械仕掛けの神』を取り出す。
首筋に刺さる棘の感覚を確かに覚え、自分自身の体内にあるマナへ指示をする。
ウンディーネのマナを保護し、安全に臓器まで運べ、と。
「……はい、終わりよ」
「え……もう終わりですか?」
私の方へ送り込まれた分をしっかりと安全に運び終わったところだった。
精々数滴垂らしただけだった筈だが……本当に足りているのか、疑問に思って私はウンディーネに聞く。
「かなりのマナが凝縮されていたはずよ。なんとなくの感触でわかると思うわ」
そう言われて意識してみると、確かにマナが溜まりに溜まっている感触があった。
必要な分のマナは、確かに溜まっている様だ。
「……」
視線をマナティクスの方へ動かし、私はマナティクスの姿を見た。
先ほどよりも幾ばくか光の強さが増し、マナティクスも苦しむ表情と共に時たま漏れ出る様な唸り声が聞こえて来る。
……すぐに、楽にしてあげますから。
「行きますよ! 『機械仕掛けの神』!」
私がそう叫ぶと同時に、突き刺さった棘の管からマナが溢れ出す。
しかし、その色はいつもの様な純白の白い光では無く、透き通る海の様な青色だった。
凝縮はせずに気体のまま、流れる気流の様にマナが流れ出ていく。
一陣の風の如くマナティクスの周りを取り囲んでいき、気流の輪が作り出された瞬間。
気流の輪は縮まり、マナティクスとの間を狭め、遂には彼女の身体にそれがぶつかった。
青い光は赤く輝くマナティクスに溶け込んでいき、混ざり合った部分は次々と白い色に戻っていった。
「……! これは……⁉︎」
「マナティクス! あともう一息です、頑張って下さい!」
熱さが消えた事に、マナティクスはハッとするが、私が声をかけると何かを悟った様にうなずいた。
「……! そうか、分かった。これなら一気に……!」
マナティクスがそう言うと、サラマンダーを握るマナティクスの手の一点が赤く光り、サラマンダーへと移されていく。
それがサラマンダーに移った瞬間、彼女に刻まれた刻印の先端が赤を通り越し、白い光を放ち始める。
白い光が刀の先へ走っていくと、その後には雷の様な刻印がついてくる。
白い光が切っ先まで辿り着くと、それは強い光を放って消えた。
しかし、その後に残っていたのは。
「……完成だ」
刀全体に走る赤い稲妻の刻印。サラマンダーだった。