第百九十一話 神を燃やす炎
「……始めるぞ」
マナティクスは目を伏せ、身体を起き上がらせる。
それに応じて先ほどと同じ様にヴィリアの炎が吸い込まれ、マナティクスの左手へと流れる様に移っていく。
「……?」
私は、何か奇妙な違和感を感じた。
マナティクスの姿が……だんだん赤くなっている……?
ヴィリアの炎を取り込むにつれて、マナティクスから発せられる光が純白の様な光から、だんだんと燃え盛る炎の様な暖かな光へと変わっていっていたのだ。
光自体も若干強さを増した様に感じる。
近くに立っていたヴィリアの顔も赤く照らされ、まるで巨大な篝火がそこにあるかの様だった。
そんな光景を不思議に感じ、私はマナティクスに問おうとし。
「その……。あっ……」
しかし、そこで私の言葉は止まった。
マナティクスの姿の変化という想定外の出来事に加え、更に私の言葉を詰まらせる様な事があったからだ。
マナティクスが、苦しんでいたのだ。
ヴィリアの炎を吸収したマナティクスの手は微かに震え、その顔は集中する為に目を瞑って入るものの、歯を食いしばり、苦しむ様に表情を歪ませている。
今までに見たことのない、マナティクスの苦悶の表情。私と同じ様にそれに気づいたヴィリアは若干心配げに。
「お……おい、大丈夫か……? 一度私の力を送り込むのをやめたほうが___」
「止めるな!」
しかし、マナティクスはヴィリアが炎を弱めようとし、僅かに送り込まれる量が少なくなった瞬間に強く叫んだ。
「……問題は無い。貴様は黙って私にマナを送り込め」
マナティクスは半ばから元気の様に不敵な笑みを浮かべる。
「……」
ヴィリアは、一瞬ためらって戸惑う様な表情をしたが、マナティクスの言った言葉に一つだけ頷いて再びマナを注ぎ始めた。
……一体、何が起きているんだ?マナティクスの周り……それにマナティクス自身もどうしてあんなに赤くなって……あれではまるでサラマンダーの炎だ。
「……やっぱり、サラマンダーの方は難しそうね……」
私の横に現れて、ウンディーネがそんな事をポツリと呟く。
「難しい……って、どういうことですか? ウンディーネを直した時は、あんな事には……」
私が聞くと、ウンディーネは憐む様に苦悶の表情を浮かべるマナティクスを見て。
「マナティクス様は、今燃やされているのよ」
燃やされて……いる……?
私はウンディーネの言う事に納得が行っていなかったが、それも構わずにウンディーネは話を続け。
「普通の炎が物質的な物なら、炎の特性を持つマナは概念的な物。炎へと変換されるまでの間はこの世にある物をマナは燃やせない。
……でも、マナティクス様はこの世にある物でもなければ、物質としてある存在でも無い。
概念だけが、あの方に影響を与えるのよ」
……つまり、マナティクスだけを燃やす炎、なのか?
……とても炎に燃やされている様には見えないが、あれが物質では無い炎の燃え方なのか?
焼かれながら、マナティクスは治療をすると言うのか……?