第百八十九話 喧嘩するほど仲が良い
ウンディーネは、私の方を見ると途端に目を丸くして。
「フ……フレイ! あなた大丈夫なの⁉︎ あの族長の攻撃は危険よ……私、一体どれくらい眠っていたのかしら……」
そんな突拍子もないことを言い、今度は辺りを見回す。
族長……まさか、ウンディーネはまだあの山にいると思っているのか……?
「あ……あの、ウンディーネ___」
「どうやらあの部族の場所では無さそうね。と言うことは、あなた達逃げてきたってこと……?
あの族長から逃げ切るなんて……とにかく、私も今度こそは本気で……」
……駄目だ。ここまで必死になっているウンディーネを止めるなんてできない。
今きっと“もう倒しました”なんて言ったら、ウンディーネは恥のあまり弾け飛んでしまうだろう。
ここは、一旦黙っておいて自然な流れで……
「あーひゃははははっははは! 馬鹿ねえあんた! もうあの山からは抜け出してんのよ! ここオルゲウスよ、オルゲウス!」
と、サラマンダーが私の考えもウンディーネの真剣さも全部吹き飛ばして笑い飛ばした。
「……は? え……ま、まさか! 私が一瞬意識失っていた間にそんなこと起こるわけ……」
「あんたの一瞬ざっと二、三日よ! 私達がとっくに族長を抜けて来たっていうのに、“今度こそは本気で……” は! はははっあーっははははっはは!」
身体こそ微動だにしなかったが、サラマンダーはこれでもかと言うほどに、まさに腹が捩れるほどに笑っていた。
一方、ウンディーネは。
「な……何なのよ! こっちが大真面目に戦おうとしていたのにその言い草……! へ、へし折ってやるわ! そのなまくら刀身根本からボッキリ折ってやるわ!」
そう言いながら涙目で激昂してサラマンダーを掴もうと手をこちらへとぐわっと伸ばすが。
「ま、まあまあ……! サラマンダーもきっと安心して笑いが出ちゃったんですよきっと! 私達、ウンディーネが本当に心配で……!」
私がそう言って宥めようとすると、ウンディーネは赤くなった頬はそのまま、途端に神妙な顔つきになって。
「……どう言うこと? 私が心配って……何があったのよ?」
そう問いかけるウンディーネに、私は___
*
「___とまあ、こう言った理由で今ここに居るわけです。サラマンダーも途中とっても心配していましたし、何よりウンディーネが目覚める前に……」
「それは言わなくて良いわ、フレイ。今になってどうしてあんなこと言ったのかもわからないし……」
「全くよ。皆して私がいなくなったんじゃないかなんて心配して……。……まあ、さっきそこの鉄棒が言ってたことは取り消してあげる」
ウンディーネが少し小声になって言う。
……やっぱり、仲が良いんだな。
「聞こえてたわよ青ローション! 誰が鉄棒ですって⁉︎ お飾りの目ん玉じゃ見えませんか……あ……」
サラマンダーはなおも憎まれ口を叩くが、途中でその言葉が止まる。
何故なら、今目の前に居るのは何を隠そう。
「……じゃれ合いは終わったか? なら、次はサラマンダー、お前だ」
そう言って、マナティクスはその悠然とした姿勢から立ち上がった。