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第百八十八話 帰還せし蒼

「あ……でも、その前に一ついいかしら? 私よりも先に……ウンディーネを治してちょうだい」


「え……別に構いませんが、どうしてですか……?」


 私が不思議に思って聞くと、サラマンダーは少し考え込み。


「んー……あの子に良い顔したいから、かしらね?」


 そう言い、照れ臭そうに笑った。


 ……サラマンダーがそう言うのなら、ウンディーネからにしよう。

 彼女に会うのも、久しぶりになる。


 起きたら、どういう表情をするのだろうか? 寝ぼけた様な状態になるのだろうか、もしそうなったなら、珍しい一面を見れるかもしれない。


 ……とにかく、成功するまでは気を抜けない。早く始めなくては。


「マナティクス、準備は大丈夫ですか?」


「あ、ああ……いつでも問題無い。確実に治せる」


 私が呼びかけると、マナティクスはいつもとは打って変わって悩む様な表情をして、一瞬その顔に影が差していた。


 いつもの神経質そうな表情に変わりは無かったが、無関心、と言うよりは、何かを抱えている様な雰囲気で私を見る。


「……では……お願いします」


 そう言って私は、懐から一つの瓶を取り出す。


 大きなカエルが一匹入りそうなほどの大きさで、透明なガラスで作られ、コルクの蓋がしてある。

 どこにでもある、普通の瓶だ。


 しかし、その中に入っているのは、絶対に無くしてはいけない物。


 深い青色の半透明な液体が入り、少し傾けるとのりのようにゆっくりと動く。

 マナティクスの白い光を背に受け、神秘的な光が私の顔を青く照らす。


 ……ウンディーネ、絶対に戻ってきて下さい。


 そう祈りを込めて、私はマナティクスにウンディーネの入った瓶を渡した。


 マナティクスは品定めをするように瓶をあらゆる方向へ向けて観察する。

 一通り観察し終えたのか、一息つくと。


「……ああ、問題無い。この精霊は戻ってくることができるぞ。……小娘、水を」


 マナティクスにそう指示され、ヴィリアは頷く。


 それと同時に掌を上にして手を前に差し出し、一瞬、手が青く光ったかと思うと。


「……はっ!」


 泉が湧き出たかのように、みるみるとヴィリアの掌から水が溢れ始める。


 いや、正確にはあれは水では無いのだろう。水の性質を兼ね備えたマナ、まだ水へと変わる一歩手前の純粋なエネルギー。


 その力は止まることなく湧き出、手のひらの器からついに落ちそうになる。


 が、その瞬間にマナティクスが手をおもむろに伸ばす。

 こぼれ落ちようとしていたマナはマナティクスへと吸い寄せられていき、次々とその手の前で形をなして行く。


 それは形を保っているはずが、次の瞬間にはまたその姿を変えていた。

 まるで、コップの中で振られる水のような、はたまた燃え盛る炎のような。


 可変的なその青い物質は気付けばマナティクスと同じほどの大きさに膨れ上がり、今にもはちきれるのでは無いかと言うほどだった。


「……」


 マナティクスがそれを横目に自分が握っていた瓶を手放すと、途端にそれは自分自身で浮かび上がる。


 意思を持ったように浮遊し、一人でにコルクの蓋が落ちると、中にあったウンディーネまでもが同じようにマナティクスに吸い寄せられて行く。


「すごい……これが……!」


 これが、マナの祖、神の力。

 目の前はすでに青い光に包まれ、洞穴全体がその輝かんばかりの光に飲み込まれていた。


 両手にものを浮遊させるマナティクスは、その二つを自分の目の前で、合わせた。


 光は一点に収束し、小さな炎のような魂の揺らめきが垣間見える。


 その光が再び広がり、次の瞬間には。


「……あら? 私は、確かあの族長に殺されて……」


 懐かしい姿。

 高貴な雰囲気を感じさせる長髪のような見た目。

 それを、透き通る青白い姿がより一層引き立たせていた。


「ウン……ディーネ……?」

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