第百八十三話 贖罪
……それで、最初に言っていたあの言葉に戻る、と言うわけか。
……今の話から推察するだけでも、少なくともディオトルがヴィリアを助けた事は事実だろう。
「となると……その時も、やはりディオトルさんがヴィリアに血を分けた、と言う事ですか……?」
私がヴィリアに聞くと、彼女はコクリと頷く。
腹部を押さえていた手を動かし、彼女は自分自身の顔の前にそれをかざす。
憂うような表情をして、彼女は。
「私がもっと早く気づけていれば……祭祀長様に無理強いをさせるような事もなかったはずだ。
もっと別の方法が……」
ヴィリアは悔しげに眼前にある自分の手を握りしめ、そこから締め付けるようなギリギリと言う音が聞こえる。
「……そ、そんな事ないよ! 私、ヴィリアさんにすごく感謝しているよ!」
ヴィリアが項垂れる中、唐突にイレティナは自らの胸に手を当てながらはっきりと言った。
それが気になったのか、ヴィリアもイレティナへ目を合わせ、顔を上げた。
イレティナは続け様に。
「今机に乗っているあの男の人、本当に危ない状態だったの! あの時、近くに人もいなかったし、私がどこかに運ぼうとしてもその間に倒れちゃうんじゃないかって……」
ヴィリアに語りかけるように、イレティナは言う。
私を背負いながらではあったが、身体全体で表現するかのように必死に伝えようとしていた。
でも、確かにイレティナの言う通りだ。
あの時に行く宛が無ければ、きっと私はあそこで留まったまま、彼が死ぬのを待つ事になっていただろう。
「だ、だが……私は、祭祀長様を……」
「この老爺が、嫌々やったと思うか?」
イレティナの言葉にたじろぐヴィリアだったが、今度はマナティクスが彼女に声をかけた。
困惑した表情で沈黙するヴィリアに対し、マナティクスはディオトルを見やり、息を吐きながら足を組む。
「貴様を助けた時も、今も、だれかに頼まれたからと言うわけではない。
きっと、貴様が連れてこなくとも見つけたらすぐ同じことをしていたはずだ」
マナティクスの言葉に、ヴィリアは押し黙る。
その姿は、何か引っかかっているような、ピンときていない雰囲気だった。
複雑な気持ちなのだろう。
だったら自分は必要だったのか? なんて思っているかもしれない。
だが、決してそう言うわけではないのだ。
「ヴィリアは、彼をここに連れてきてくれたじゃないですか。貴方が協力してくれて無ければ、私達はここには戻っていませんでしたよ」
マナティクスの言葉に付け足すように私は笑顔をして言う。
一瞬、ヴィリアは嬉しそうな表情をしたが、私の顔を見た瞬間に再び顔を暗くして。
「……お前には酷いことを言ってしまった。いくらヤケになっていたとはいえ、あんなこと……」
「もー! ディオトルさんも無事でしたし、気にしないで大丈夫ですよ! それよりも、皆で二人の介抱をしないといけませんよ。木の実を持ってきて、焚き火も炊いて……」
私がそう言って振り返ると、そこには。
「……ん。 ここ……どこだ? 確か俺はサツキに出会って……」
あの赤髪の彼が、辺りを見回していた。