第百八十一話 齟齬
あり得ないとは思いつつも、私はヴィリアにそう恐る恐る聞く。
しかし、私の問いに答えるでもなく、ヴィリアは眉を潜めて首を傾げるだけだった。
全くピンと来ていないようだ。
……では、本当にヴィリアはディオトルの治癒方法を知らないのか?
「……言わないのか?」
沈黙を破り、マナティクスが私に尋ねる。
まるでなんでも知っている様に私の方を見下す彼女の蒼い目に、私は見透かされている様な気分になった。
マナティクスは、私が言うと考えているのだろうか……。
……いや、ここはマナティクスが考えている様に、ヴィリアに伝えよう。
もしかしたら、それで謎が解けるかもしれない。
聞く事に他は無いだろう。
「ヴィリア、ディオトルさんは……彼は、あの赤髪の方を助けるために、自分の血液を転移させたのです。
だから、血液が不足して……」
その後はヴィリアの知る通りだ。
私も焦っていて、てっきり死んでしまった物だとは思ってはいたが……。
そう考えていた時、私はふとヴィリアの表情を目に映した。
目の端だったので気付いていなかったが、その表情は……。
「そんな……そんなこと、あり得るはずが……だって、祭祀長様は私を……」
困惑する様な表情をして、ヴィリアはわななき震えていた。
まるで、私の言った事が信じられない、とでも言う様に独り言を呟いていたのだ。
「ヴィ、ヴィリア……?」
私は困惑と共にそんなヴィリアが少し心配になり、恐る恐る声をかける。
しかし、次の瞬間。
「……小娘、貴様の妄想は一度忘れろ。事実だけを見ればいい」
マナティクスが、ヴィリアに向かって身体を乗り出して話していた。
その物を知った様な口調にヴィリアは一瞬はっとすると、目を瞑って何かを考え始めた。
少しの沈黙が続いた後、彼女はゆっくりと目を開け、先ほどと比べて非常に落ち着き払っていた。
しかし、それと同時に顔には影がさし、何か暗い雰囲気を感じる。
「……すまない、皆。これは……私の責任だ」
ヴィリアは顔を下に下げたまま、そんなことを唐突に言い始める。
まるで、何か重大なことを理解した様な___
「……どう言うこと? いきなり、自分を責める様なこと言って……」
イレティナは私と同じ様に困惑していたのか、若干たじろいでヴィリアに問いを投げかける。
私もそれに続いて。
「そ、そうですよ! 私にも責任はあります。あの時だって、ちゃんと生死を確認したり、そもそも念を押して止めていれば……」
「……そうではない。本当に、私のせいなんだ」
ヴィリアは私の言葉を制し、自嘲気味に笑う。
私がヴィリアの言葉に気圧され押し黙ると、全員が沈黙していた。
ヴィリアはそれを見てか、深いため息をつくと。
「……私は昔、祭祀長様に助けられた事があったんだ」
そう、ポツリと呟いた。