第百七十九話 お前のせい
沈黙が、場を支配する。
ヴィリアが何を思っているのか想像もできず、私はその濡れた顔を見るだけだった。
「……ヴィリア……ディオトルさんは……」
沈黙の時間を得て少し冷静さを取り戻し、私は寒さに震えながらも述べようとする。
しかし。
「お前の……せいだ……」
私の言葉はすぐに遮られる。
ヴィリアの顔には陰りがさし、彼女の表情を酷く陰鬱なものにしていた。
グラグラと煮えたぎる憎しみに私の言葉は押し込まれ、呼吸ごと止められてしまい、私は恐怖心に似た罪悪感を覚えながら彼女の顔から目を離せなくなる。
「お前のせいで! 祭祀長様が犠牲になった!」
張り裂けるようなヴィリアの声が洞穴の中へ響き渡り、反響を繰り返して私へ襲い掛かる。
つんざく言葉が私の耳を貫き、私は目尻に涙を浮かべていた。
「お前と祭祀長様だけなどにしていなければ、こんな事にはならなかったんだ……! お前さえいなければ……祭祀長様は死ぬことなど無かった……!」
ヴィリアのぶつける言葉、その恐怖に慄き私は必死の思いでイレティナの背に隠れる。
しかし当然の如くその言葉は私を容赦なく貫き、私の防御手段は水泡と化して行った。
ヴィリアの荒い息遣いが遠くから聞こえる。
喘鳴が入り混じるその呼吸だけで、彼女のドロドロになった感情が伝わってくるようだった。
私も未だにイレティナの背に隠れて頬を濡らし、最早何も言うことが出来なくなっていた。
ただ沈黙を通すだけで。
何一つ、言われたことを否定できやしない。
私が、ディオトルを殺してしまったんだ。どんな理由であろうと、例えあの男が助かったとしても。
場を重苦しい空気が支配する。
誰一人言葉を発そうとはしなかった。松明の灯りのみが薄暗く照らし……。
「……?」
涙でぼやけた視界に不意に見知らぬものが現れる。
それは、生き物のようにうつろい、自ら白い光を放っていて、まるで蛍のように感じられた。
しかし、徐々に光は小さくなっていき、最後には燃え尽きた炎の如く、初めからなかったかのように消えてしまう。
その時だった。
「あ……」
わたしの口から、声が不意に飛び出す。
その白い光はそれ一つではなく、十数個と空間を漂い、幻想的な光を生み出していたのだ。
しかも、その光達が私の目に入るのは、決まって同一の方向からだった。
私は何も考えずに、光が出る方へ徐々に視界をずらしていく。
すぐさま、それは私の目に捕らえられ、私の瞳にその姿を写す。
だが、みると同時にそれは声を上げる。
「貴様ら……先程から何を言い争っている。その男は生きている、それに命の心配もないぞ」
呆れたような声を、光の根源は上げる。
白く光り輝く透明な身体にその周りにたむろする光玉、人間態であろうとも、すぐに見分けのついてしまう存在だ。
「マナティクス……⁉︎ し、死んでないって……ディオトルさんがですか⁉︎」