第十七話 フェアラウス行き客船
「青い空!白い雲!さざなみの立つ海!気分は南国!」
私はフェアラウス行きの客船のチケットを買った。
船のデッキから見える風景に、私は思わず決まり文句を言ってしまう。
「気分もなにも、南国に行くんですよ?
南国にはおいしいフルーツがたくさん実っていると聞きます。
想像しただけでよだれが……」
フレイはフルーツを待ち遠しそうにデッキを回っていた。
まあ秘密にしている3つ目の目的、王の回収もしなきゃ行けないから私は無理かなあ……。
そう考えて、私は空を見上げる。
「サツキ、どうしたんですか?ボーッとして」
「んっ!?いや、ほらあれだよ、その……ああ!あそこにある雲がリンゴに見えてさ!」
私は咄嗟に取り繕う。
「リンゴ……ですか?聞いたことのない名前ですね……」
フレイは手を顎に当て首を傾げる。
「皮が赤くてさ、甘いやつだよ、知らない?」
リンゴなんていくらでも目にすると思うけど……。
「あ!ひょっとしてサクレイですか?
サツキは結構な頻度で変な呼び方をしますよね。
サクレイだったらフェアラウスの特産品ですよ!いくらでも食べられますからね!」
サクレイ……どっかで聞いた名前だな……。
うーん……思い出せそうなんだけど……。
その時だった。
唐突に船体が大きく揺れ、私達は転んでしまう。
「モンスターだ!」
そんな声が聞こえ、下を見るとサメのようなモンスターが船に食い込んでいるのが見えた。
「キバイトですか……しかも体長が通常の2、3倍はありますね」
フレイは汗を垂らしながら警戒している。
「こ、こんな広い海でモンスターに会う!?モンスター自体は数が少なくなったんでしょ!?」
「陸では、の話です。人間の開拓がまだ及んでいない海ではモンスターが大量にいます。
そのために船は非常に硬い金属で作られているのですが……。
今回ばかりは規格外です。言うなれば不運ですよ」
こんなところで不運が……!転生したときに置いてきたかと思っていたのに!
「で、でも他に対策はないの!?船底が開けられた時の対策とか!」
私が聞くと、フレイは少し考えた後に。
「……ギルド所属の人間を雇っていることが多くですが……。
もし解決したのならもうとっくにキバイトは船から引き摺り下ろされています」
「そ、それってつまり……」
私がおそるおそる言うと、フレイは首を横に振った。
「っ!ちょっと行ってくる!」
私は床を貫き、下へと降りていった。
『気配遮断』を使って探索を始める。
ここが船底に一番近い場所か……って。
「うわっ!」
足に柔らかい感触を覚え、下を見るとそこには人が無造作に倒れていた。
更に、周りにも人が倒れていることに気づく。
これは……。
人が倒れている方へ向かっていくと、そこには黄色の線が所々にあるクラゲが何匹もいた。
『……あのクラゲについて』
『検索中……シビレチョウチン。
スキル『痺れ毒』を持ったチョウチン種族、強力な毒を持っているが、体は柔らかい』
柔らかいんなら……私の剣の腕前、見せてあげよう。
鞘から刀を抜き、私は横に構える。
「はっ!」
クラゲの頭と足のつなぎ目を切り離すようにして、どんどんと切りさばいていく。
クラゲ達は突然の事態に混乱していたが、最後の一匹の前で私は気配遮断を解除する。
当然、クラゲは私に向かって毒を出す。私はその毒を跳ね返し。
「それが見たかった」
ニヤリと口元を上げ、切り伏せた。
『……スキルについての解説を』
『痺れ毒はマナを器官の中で毒へ変化させ射出するスキルです』
コピー完了。
マナを保存する器官はどんな生物にでもあるらしい。
しかし、それの活用法は生物によって変わってくる。
何故一つの方法しか使えないのか。それは犬が二足歩行できないこと、鳥が肉を食べられないことと同じである。
やりようによっては可能だが、そのやり方を知らない。
私はそのやり方を覚える。そう言う能力だそうだ。
「さて、大物が残っているね……」
そう言いながら私は船底に穴を開けた、サメを見る。
私はごく自然に、まるで道を歩くような足取りで近づき、手を広げる。
「やあやあ、デカいサメくん。あれ、キバイトっていうんだっけか?
どっちでも良いさ。お腹減っているかい?私食べてみる?」
私はまるっきり油断しているように演じる。
それを見たサメは、口を大きく開き、齧り付こうとしてくる。
その瞬間、
「『痺れ毒』」
サメは口の中に毒を入れられ、口が開いたまま固まる。
「船に穴を開けるんだ。外側はよほど硬いだろう。でも、中はどうかな?」
そう言いながら、私はサメの中に入る。
「ほら、口を閉じれば、思いっきり食べられるよ?食べないのかい?
うーん、残念だ」
私はサメを散々煽りながら、口の中に剣を突き立てる。
「じゃ、さよならだ」
内側を剣が走り、サメは体を壊されていく。
私はあらかたサメを切りさばいた後、外に出て。
「刺身食べたい人ー!」
「まったく……あまりスキルを使って舞い上がらないでくださいね?
お刺身はまあ美味しいですけど……」
「うん、大きく育っていただけあってめちゃくちゃ美味い。モンスターも結構いけるね」
サメを討伐した後、船底には蜘蛛糸を何重にも重ねて応急処置をしておいた。
礼金をもらいかけたけど、フレイに遮られてしまった。
「今はたくさんお金を持っているんですから、売り上げまで巻き上げるのはかわいそうです!」
だそうだ。
「あ、サツキ、見えてきましたよ!あそこがフェアラウスです!。」
指差す方向を見ると、そこにはたくさんの木々と美しいサンゴ礁。
精霊島国フェアラウスが見えていた。
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