第百七十七話 悔い
*
私は、岩から出た。
しかし、その歩みは頼りのないもので、ヨロヨロと前後不覚な歩き方をしていた。
「フレイ! ……どうした?」
地面を見つめて前を見ていなかったために、私はそう声をかけられて、初めて目の前に人がいることに気がついた。
「ヴィ……ヴィリア……」
「体調が良いようには見えないが、何かあったのか? ……それに、先程あいつも私にも気づかずに出て行ったが……」
ヴィリアは、何があったのかを聞こうとしている。言わなきゃ……。何が、あったのか……。
「あ……っあ……」
……? 言葉が出てこない? 喉奥で何かが引っかかるような……。
しかし、ヴィリアは私の声が聞こえていないのかこちらも見ずに洞穴の方を向いていた。
まるで何か予感でも感じたかのように、ヴィリアは一瞬神妙な顔つきになって歩き出す。
「……ひとまず、祭祀長様に話を聞かなければ……」
「ヴィ……ッヴィリア!」
思わず、口から言葉が出て、歩いて行こうとするヴィリアを引き止めてしまう。
当然、今度ははっきりと言葉が出たために彼女はその足を止めてこちらに振り返る。
「……どうした?」
振り返ったヴィリアの顔は、何かに怯えたような顔をしていた。
顔、と言うよりは彼女の雰囲気がだった。顔自体は先ほどと変わりはなかったが、私の伝えようとしていることに怯えているような。
「…………」
「……どうした、と言っているんだ。話すのなら早く話せ!」
ヴィリアは、ひたいに汗をかいて私へ吠える。
怯えを掻き消すように、焦ったそうな表情をしていた。
言わなきゃ……いけないんだ。口から絞り出さなきゃ……言え……言え……言え!
私は頭の中でそれを何度も反復して自分に何度も命令をした。
そうして私の口から出た言葉は。
「ディ……ディオトル……さんが……ディオトルさんが……!」
「……? 祭祀長様が……祭祀長様が、どうしたと言うんだ⁉︎」
私はそれだけ言い、足から力が抜けて、その場に膝をついてしまう。
一瞬立ちくらみが起き、視界が黒く覆われる。
「おい! おい! フレイ! どうしたと言うんだ!」
ヴィリアは目を見開いて膝をついた私の目の前に跪き、必死に肩を揺さぶる。
しかし、力が抜け切ってしまい、私はそれ以上何も言うことができなかった。
「くっ……! 祭祀長様!」
ヴィリアは私の答えも待たずに駆け出し、洞穴の方へと向かう。
私は、それ以上先には行けなかった。