第百七十六話 自己犠牲
身体から熱が失われていき、指先や足の先端から感覚がなくなっていく様な冷えを覚える。
きっと血液が無くなっているからなのだろう。
しかし、一瞬でここまで持っていかれるとなると果たして大丈夫なのだろうか……?
「あっ……」
その時、目の前を埋めていた緑色の光が突如として黒くなる。
光だけではなく、視界の端までが全て暗黒に染めあげられていき、身体が下に落ちる様な感覚を覚えた瞬間。
「これで充分ですじゃ。フレイ殿はそこで休んでいてくだされ」
気づいた時には、私は地面にへたり込んでズキズキと痛む頭を抑えていた。
意識が確かになっていくにつれて視界の色彩も暗闇を取り払われて色を戻し、下を向いていた私の視界には土くれと石が散らばっている。
……血を取るのは一瞬で済んだのか……。しかし、まだ手足は感覚を取り戻すのに時間がかかりそうだ。
手を腕に当てると、ひんやりと冷たい。まだ血は戻っていない。
上を向こうにも、力が入らない。上にあるのであろう光が私の視界の端に僅かに差し込む。
……サツキを助けるためには明日までにどうにかしなければならない。
マナティクスは、持って二日と言っていたのだ。一刻も早く行かなければ……。
……だが、何故サツキはそれほどに猶予がないのだろう? 憎たらしいことではあるが、サツキは評議会に連れて行かれ、保護されているはずだ。
もし、評議会側がサツキを殺したいと思うならさっさと殺してしまうだろう。
……だが、サツキがいなくなってあれからと言うもの、二週間は経っている……。彼ら側に立つならばそんな事はあり得ないと考えて良い。
だったら、別のところに理由があるんじゃ無いのか? サツキは自分の心の底から評議会に入ろうだなんて思っていなかったはずだ。その時、彼女は精神に影響を受けて……。
……もしかして、マナティクスの言っていた本当の意味って、死ぬって事じゃなくて、私達のことを……。
その時、唐突に私の目の前へ何かがドスンと倒れ込む。地面へ少し擦れる様な音を鳴らしながら、上から降ってきたそれは、全身をローブで包んでいた。紛れもなく、ディオトルだ。
「ディオトルさんっ⁉︎」
驚きと同時に私はとっさに彼の体を抱えてそこで自分の手足へ血が戻ってきていたことに気がつく。
しかし、ディオトルはそんな私とは比べて肌を青白くし、明らかにひどい症状だった。
そんな……私が多少無理をすればこんな事にはならないはず……。
「はは……申し訳ありませぬ……貴方様にはまだ死なれては困りますのじゃ……」
「私から取る血を……少なくしていたんですか⁉︎ そんな、少し倒れてでも、助けれるなら……!」
悔しさを拭いきれない私にディオトルは今にも意識を失いそうと思えるほどに口を開き、か細く一言、呟いた。
「ヴィリアを……頼みますじゃ」