第百七十五話 輸血
「血液って……! 一体いくら使うんですか……⁉︎」
人間の血液は二十パーセント以上失うと死に至ると言われている。
だったら、彼が今失っているのはそれに近い量のはず……
「……恐らく、儂だけでは足りませぬ……しかし、イレティナ殿の血液では彼にうまく当てはまらないのですじゃ」
ディオトルは老体を震わせながらこちらへ身体を向け、目を伏せる。
ディオトルだけでは足りないのなら、誰が他の血液を……?
私はそう一瞬考えたが、数秒もしないうちにすぐ検討がついた。
「だから、私が残されたんですか……?」
私が問いかける様に言うと、ディオトルは不思議と申し訳なさそうにしてさらに頭を俯かせる。
「はい……。ですが、フレイ殿も身体はまだ幼き物でございましょう……フレイ殿にも十分に危険はある状態ですじゃ。もし、やりたく無いのなら儂が……」
そう言いかけたディオトルのしわがれた手を、私は彼が話し終わるよりも前にがっしりとつかんで顔を向ける。
ディオトルがそんな私に顔をはっとしてあげると同時、私は息を大きく吸って。
「やります! 目の前にある救える命なら、全部救いたいんです! ……お願いします。私に協力させてください!」
そう捲し立てる様に言った。
まだ彼は死んでいない。私の出来ることを、全力でやるべきなんだ!
ディオトルは私の捲し立てた言葉に一瞬驚いた様にまばたきをしていたが、しばらくして目を数秒瞑り。
「……分かりました。フレイ殿の気持ち、しっかりとこの胸に刻み込みましたぞ」
噛み締める様に言うと、再び男の方に体を向けて、次は青い光を光らせる。
「では……フレイ殿、こちらに来ていただけませんかの?」
ディオトルこちらに向けるしわがれ声に、私はすぐにその横に来た。
改めて男の姿を見ると、やはり髪は赤色、顔立ちも……確かに見覚えがあるのだ。
やっぱり、この男は……彼、なのか?
「今から血液を転移させるための魔術を使いますぞ。儂が手に光を呼び寄せますから、そこに手をかざしてくだされ」
私は不思議と鼓動が早くなり、小さくこくりと頷いた。
それを見るとディオトルは手を男にかざし、光をその手に浮かび上がらせる。
光は青から緑へと変化していき、まるでエメラルドの様な深い緑を放っていた。
私はそのまま吸い込まれる様に手をかざしていき、一瞬自分のやることを忘れてしまう。
「っ……⁉︎」
しかし、次の瞬間にはもうその使命を思い出した。
まるで体の内から力を奪われていく様な感覚、今まで感じたことのない様な感覚が私を襲い始めたのだ。