第百七十三話 ディオトル
「え……はい、どうかしましたか?」
ディオトルの奇妙な様子に違和感を抱き、私はきょとんとして返答する。
何か、気にかかるようなことでもあったのだろうか……?
私の言葉にディオトルは一瞬慌てたようなそぶりを見せるも、すぐにいつものような笑顔に変え。
「い、いえ、なんでも有りませんですじゃ。それよりも、その彼を診させてはいただけませんかの?
その顔色と傷からして、急ぐべきかと……」
……そう時間を割いては居られないか……。
「イレティナ、彼を……」
私が言い切るよりも前にイレティナは男をディオトルの机にドスンと置き、ディオトルの方に顔を向け。
「あの! 何か持ってくるものとかあったら、なんでも言ってください……!」
非常に真剣な表情で、必死な雰囲気で言っていた。
……イレティナが以前言っていたが、彼女は昔仲間を失ってしまったと言う。
人一倍、人を助けることに強い思いを持っているのだろう。私を助けた時だって、最後まで諦めていなかった。執着とも捉えられるほどだが、きっとイレティナは……
……私も、イレティナばかりに頼ってはいられない。
同じくらいの意思を持って動かなきゃ、サツキだって助けられない。
私も、イレティナと同じように決心したつもりでディオトルへ目を向け。
「私からも、改めてお願いします! 見知らぬ人では有りますが、助けてあげたいんです!」
そう言いながらばっと頭を下げる。私も、助けてあげたい、と言う気持ちは同じだ。
それに……もしかしたら彼は私の知っている人かもしれないのだ。本当にそうだとしたら、尚更助けないといけない。
「……分かりました。では、イレティナ殿はこの森にある木の実をできるだけ取ってきて頂きたい。
フレイ殿はここにとどまっていただけませんかの?儂だけでは力が足りないのかもしれませんのじゃ……」
ディオトルの言葉を聞くや否や、イレティナはすぐさま外へ飛び出て行ってしまった。
……私もするべきことをしなければ。しかし、どの様にすれば良いのだろうか……
そんな私を横目に、ディオトルは机に寝かせられた男の前に立ち、顔を男の体に近づける。
「なるほど……骨が何本か骨折して……それに血液も大分失っている……」
そう呟いていると、ディオトルは手をかざして赤く輝かせ始める。
「あの……何を……」
一体何をしているのか気になり、私はディオトルへ恐る恐る聞く。
「マナを肉体の中に満たしていますのじゃ。この後に、マナを血液に変えていき、一応の治療を終わらせる、と言う形ですじゃ」
変える……サツキの変化の様なものか……?