第百七十話 重傷者
「イレティナ……⁉︎ わ、私達はただ歩いていただけですけど……」
唐突に現れたイレティナに私は驚き、若干どもり気味に話す。
よく見ると、イレティナは頬や額に水を垂らし、汗をかいている。
息も荒いし何か急いでいるようにも見えるけれど……
「イレティナはどうしてここに?」
私がそう聞くとイレティナはまるで今思い出したかのようにはっとし。
「そ、そうだった! フレイちゃん、すぐにこっち来て!」
そういうと、彼女は顔を青くしてくるりと身を私たちへ翻し、砂浜の方へとかけって行った。
以前この島で見た砂浜とは違って、この砂浜は木々が植えられてはいなかった。
ここでは潮風を防ぐ必要が無いのか……?
イレティナは私たちについて来いとは言ったものの、かなり焦っているのか私たちの方へは全く顔を向けずにどんどん走って行った。
一体砂浜に何が……
「あ! あそこ!」
イレティナはそう叫び、翔って行くまま岩陰を指差す。
その岩陰には、人が蹲って倒れていた。
「人が……⁉︎ イレティナ、これって……」
息をつく間も無く彼女はその人へ駆け寄り、腕に手を当てる。
恐らく、脈があるのかを確認しているのだろう。……しかし、それくらいに危ない状態なのか……?
「いきなり海から砂浜に出てきて……でも、すぐに気を失っちゃって、私どうすればいいか分からなかったから……」
ひとまずできる介抱をした、というわけか。
しかし……海から……? 溺れたりでもしたのだろうか……いや、身体中に傷がある。そういうわけでは無いのだろう。
……どこか見覚えがある。赤色の髪をして、若干濡れてはいるがかなりの軽装だ。腰にもダガーを刺しているし、普通の人間では……
……まさか、彼なのか? 私のいるここに、たまたま訪れて、それでたまたま重症な状態で……?
……とても考えられるような確率では無いが、誰であろうと助ける必要があるのは事実だ。とにかく、治療ができるような場所に連れて行こう……。
「仮神翼で安全なところまで連れて行けるはずです。……しかし、どこに連れて行けば……」
「祭祀長様だ」
ヴィリアは私の後ろから呟き、やむを得ない、というような感じだった。
「祭祀長様なら何とかできるだろう……それに、私も早く行ったほうがいい。私も連れて行ってくれ」