第百六十八話 ヴィリア
ヴィリアの振り下ろした刀は、まるで竜巻の様に目の前の海に魔力の渦を巻き起こす。
目の前で起こるそれは、水のような、火のような、非常に曖昧な現実からかけ離れた外見となっていた。
実際は全て内包しているのだろうけれども……。いや、それよりもどうしてヴィリアは海に攻撃を……?
「……そろそろ浮かんでくるはずだ」
竜巻が十数秒経った後にヴィリアはポツリと呟く。
落ち着き払っているが、一体何をしたと言うんだ……?
そう考えていると、ヴィリアはタイミングを見計らっていたのか、竜巻の中から音がした瞬間に指を鳴らしてそれを霧消させる。
竜巻があった場所、それも空中には、大きな巨体があった。先程まで、見ていたものだ。
「あれは……マスティング⁉︎」
私が驚愕の声を上げる横でヴィリアは驚くような素振りも見せずに刀を再び構え、今度は突き刺すように切っ先を上に向けて姿勢を屈める。
次の瞬間、ヴィリアは縮めた体をバネのようにして、空中に投げ出されたモンスターに向かって飛び上がっていった。
目標が遥か上空にいるにもかかわらず、ヴィリアはあっという間にそこへ到達し自らの太刀でモンスターの腹へ突き刺す。
モンスターは空中にいるために抵抗することも許されず、深々と突き刺さった刀への痛みに唸るしか無かった。
刀も剣身の部分は全てモンスターの中に突き刺さっているようで、その表面につばがぴったりとくっついている。
「はぁっ!」
ヴィリアはまた力を込めるような声を上げると、更に刀で一閃する。
刀の刃は一気にモンスターの腹を裂き、先程以上にモンスターは苦しみの声を上げた。
しかし、ヴィリアはまるでその声も聞こえていないかのように、迷いもなく刀で最後まで切り裂く。
その太刀筋は、正に冷徹であると感じられた。しかし、それと同時に真っ直ぐな物でもあった。
腹を完全に裂かれたモンスターは赤い血を滴らせながら落ちていく。
ヴィリアがその肉を蹴ってこちらへ戻ってくると、それと同時にモンスターは海へと波を立てて落ち、そこからじんわりと赤いものが広がっていっていた。
「……まあ、こんな所だ」
彼女は刀についていた血を一振りして吹き飛ばし、ポツリと呟いて鞘にしまった。
……この一瞬で、あのモンスターを倒したのか……⁉︎
思ったよりも……いや、やっぱりヴィリアの力は凄まじい……!
それにしても……彼女は七聖霊、と言っていたか? 一体どんな能力なのだろう……?
「では、行くか」
ヴィリアはいきなり、何も持たずにスタスタと歩いていく。
「ちょ……! どこに行くんですか⁉︎」
「決まっているだろう、フレイ。お前の仲間を探しにだ」
彼女は振り返ると、少し意地悪そうに口角を上げた。