第百六十三話 限界
「今の話だと、私のスキルを使ってそこにいる精霊を治療する、と言う事だろう?
そこはいい、私だって精霊は嫌いでは無いからな。……しかし、だ。貴様らはあの死神の仲間なのだろう?」
「ですから……! サツキは死神なんかじゃ___」
「サツキだ、死神だ、呼び名なんてどうでも良い! どっちだろうが、あの女が私にした事は決して変わる事は……! ……ちっ、貴様もいい加減、そんな肩書きで仲間を判断するのはやめたらどうだ?」
ヴィリアはそう言い捨てると、私たちに背を向けて歩いていく。
「ヴィリア! 何処へ行くつもりじゃ!」
ディオトルが声を張り上げてヴィリアの背に向かって言葉を投げかけると、ヴィリアは一瞬ディオトルの方へ振り返り。
「……少し風を浴びてきます。暫くしたら戻って参りますので」
そう一言呟くと、ヴィリアは再び歩みを進めて洞穴から出て行った。
……肩書きで仲間を判断するな……? 冗談じゃ無い。私はそんな事、一度も……
無い、無いに決まっている。
ヴィリアがそこから去り、それぞれがそれぞれの理由で沈黙して居た。
松明の灯りは暗い洞窟の中をか細く照らし、私たちの雰囲気とは相反して一人居なくなったことにより少し明るくなっている。
「……あれですと、一日は戻ってきませんな。儂の弟子が皆様にとんだ無礼を……」
ディオトルは申し訳なさそうにして頭を下げる。彼が悪い訳ではないのに……。
それに、ヴィリアが言っていたサツキにされた仕打ちと言うのは、なんのことを言っていたんだ……?
……いや、今はそれを考える時間はない。とにかく誰か別の人にでも頼まなくては……
「……マナティクス、申し訳無いのですが、他にヴィリアの様な炎や水を扱える方を教えてはくれませんか?
別に彼女ではなくとも、同じマナの色を作れる人なら問題ないですよね?」
マナティクスに向かって明るく声をかけるが、実際はいない可能性のほうが高いのは重々承知だ。
別の場所で探すしか無いかもしれない。
「……この島にはいない。あの娘一人だけだ。……しかし、あれが一日戻ってこないと言うのは少しまずいかもしれないな……」
マナティクスは手を顎に当て、思案をする様な顔をする。
この島にはいない、と言うところまでは予想できていた。だが、私はマナティクスの言葉の中に一つ気がかりな点を覚える。
「あの……戻ってこないとまずい、というのはどうしてですか? 別に一日くらいならこの島から出て探すくらいは簡単だと思うのですが……」
二、三日もあれば探せる筈だ。その後にサツキを探すために評議会の人間でもなんでも見つけ出して……。
「……あの女、サツキは、持ってあと二日だ。それを越せばもう助からないと思っておけ」
マナティクスは悩ましげに応える。
その瞬間に、空気が……私の思考が凍りついた。私の背後にある松明の揺れる炎がフッと掻き消え、それと同時に私の口からも、言葉が漏れる。
……いや、それしか言えなかった。頭が回らず、おうむ返しになってしまっていたのだ。
「……二日……?」
サツキを助けられる残り時間はあと二日。
余りにも、唐突な宣告だった。