第百六十一話 別次元
「べ、別次元……って、どう言う意味ですか……?」
サツキの力のことを話しているのか……?
……いや、彼女の話ぶりからしてそう言うわけでは無いのだろう。別の意味があるはずだ。
……だったらどう意味なんだ? ……駄目だ、考えてもまるで分からない。
「別次元と言うのはこの世界と同じ時間の流れにある干渉不可能な空間……いや、分かりにくいか」
私の横で口を開けてポカンと宙を見ているイレティナを見たのか、マナティクスは説明を途中で止め、少し間を置いて再び話し始めた。
「……これからわかりやすく説明してやる、心して聞け。
……まず、二つの部屋がある。部屋一つが一つの世界だ。二つの部屋にはどちらも扉が存在せず、どちらに何があるのかは双方分からないのだ。そして、サツキは今貴様らとは別の部屋にいる」
サツキが……? 確かに、扉もないのならサツキのいる場所へ行く術が無い。でも……
「でも、サツキは元々こちらにいたではないですか。一体サツキはどうやって向こうへ行ったんですか?」
私達が行けないのならサツキだって行きようが無いはずだ。
何か特別な方法があるなら私達だってそれを使って……
「それは、貴様がその目で見ただろう。奴が貴様の目の前に居た最後の時に」
最後の……時……? あの時は、サツキがホークアイに連れて行かれて……確か魔法陣の様なものに乗って居た。
あれが、別次元に行く方法……?
「あれ……だったんですか? ……確か、ホークアイのスキルは『研鑽』でした。つまり、あれはスキルでは無いはずです! きっと、魔法か何かのはず……貴方なら正体を知って居ますよね⁉︎」
私がマナティクスに向かって問うと、彼女は沈黙した。
しかし、数刻もしないうちに再び口を開き。
「あれは魔法では無い。何かの力が込められた道具の様だった……
しかも、世に出回っている様なものでは決して無かった」
「え……? で、でも何か方法はありますよね……?」
わずかな期待を持って再びマナティクスに言葉を向けると、彼女は苦々しそうに言葉を詰まらせる。
「あるにはあるが……世界そのものが歪む可能性が有る……」
マナティクスがそう呟き、私も……閉口して顔を俯かせた。
……流石に世界が歪むのはやり過ぎだ。サツキの戻ってくる場所も無くなってしまうし、何よりそんな大量の人々を犠牲にする勇気なんて私には無い。
一旦、これは保留にするとしよう。聞くべきことはまだまだ有る。
「……でしたら、サラマンダーとウンディーネを直してはくれませんか?」