第百五十話 捕虜
剣はその極彩色を失うことは無く、むしろ先程よりも更に激しく荒れ狂っているようにも思える。
私もそれを受け止め切れるように『機械仕掛けの神』の発動に意識を集中させ、お互いに睨み合っている間私の耳にはゴウゴウと燃える炎の音が入り続けていた。
数秒、それとも数分だったかもしれない。ついに女はその剣を振り上げ、構えの体制に入る。
……来るッ……!
「……」
「……ッ」
こちらへ真っ直ぐと向き、それを振れば女はいつでもあの龍を繰り出せる状況だった。
しかし、まだ女はそれを私に向かって襲わせようとしない。
こちらが痺れを切らして攻撃するのを待っているのか……?
……もし、『無限連撃』や『神滅槍』を使ったとして相手を貫けたとしても、相手の攻撃で私も跡形もなく消え去ってしまう。
……誰がする物か。私はサツキに会わなければならない、だから、こんな所で死んでいる場合では無いのだ。
コウヤかイレティナ、それともブリュンヒルデが来てくれればこの状況も逆転出来るはずだ。
一人で戦うと言った後に助けを求めるのも恥ずかしい物では在るかもしれないが……今は恥を捨てるしか無い。
「……」
「……」
しかし、女はその剣を振り下ろそうとしない。むしろ、硬直しているようだった。
……もう十数秒はあの姿勢を保っている。構えるにしても長過ぎるし、何か別の意図があるのか……?
そう私が女を見続けながら思案していると、不意に女はその剣をゆっくりと下ろし、纏っていた力は雲散霧消して行ってしまった。
「な……⁉︎」
何のつもりですか、と言おうとしたが驚きのあまり声が喉の奥で詰まってそこで止まってしまった。
どう言う事だ……?何故戦闘態勢を解いたんだ……?
「……貴様には、今から捕虜になってもらう」
女は半ば勝利宣言でもするかのような言葉を発したのにもかかわらず、どこか府に落ちないような、不満気な雰囲気を感じた。
「ハァ⁉︎ どう言うことよそれ! 勝負もついていないのに捕虜だなんて___」
「名目上の話だ。あの方に言われてしまっては私もこれ以上貴様らに手出しはできない」
サラマンダーが私の懐から金切り声を上げて怒ると、女は目と目の間をつまんでガッカリしたような表情を見せる。
……とにかく……一応ピンチからは逃れられたと言うことなのだろう……。
しかし、あの方とは一体誰のことだ……?
「あの……すみません、あの方とは……?」
「……祭祀長様だ。一度町を横切って行くが、出来るだけ目立たないようにしろ」