第十四話 千葉光輝という人間
「はぁっ!」
私はコウキに向かって走り出し、刀を振りかざす。
この瞬間、私の走力は時速50Kmを出し、刀のスピードに至っては『剣豪』、『怪力』の併用で音速の域に達していた。
しかし。
「私は……いや、俺は!このスキルで戦ってきた!この世の神羅万象全てを読み解くこの力で!
人の真似しかできないスキル如きで倒せると思うなぁっ!」
身を翻し、そのまま私の頭にかかと落としをした。
「ぐっ……!舐めんなぁ!」
頭が……ズキズキする……。でも、ここで倒れてはいられない!
「お前は自分がやってきたことを知っているのか?悪魔と呼ばれても弁明のしようがない極悪非道を!」
そう言いながら私はコウキに拳を叩き込む。
しかし、コウキはその拳を片手で握り力を強めていく。
「あぐっ……」
「知っていたさ。メリー、ハングド、マストル……。
あいつらが俺に何か呪術を掛けようとしていたってことも……。
いくらでも調べて知ることは出来た。だが……怖かった。
仲間が俺のことをどう考えているのか。裏切られるんじゃないか、と。」
その間にもコウキは拳を握りしめ続ける。
まずい……!どうにかしないと……!
身体中のマナを拳の一点に集中させ、内側からこじ開ける。
「くっ……流石に転生者なだけはあるな……」
「コウキ!お前は仲間に裏切られたわけじゃない!
お前が仲間を見ていなかっただけだ!」
私は蜘蛛糸を撃ちながら叫ぶ。
「……なんだと?」
コウキは弾き飛ばすが、驚いたような顔をして私を見る。
「『何かをあいつが考えている』と感じるのは難しいかもしれない。
でも、もし気づいたら?
話し合うんだ!抱え込んでいること!秘密にしていたこと全部!
でもお前は何もしていない!勝手に仲間を見ないで、勝手に自滅した!
裏切られた?そんな言葉をお前が言うな!」
私がそう捲し立てると、コウキは噛み潰すような顔をして。
「だがもう遅い!全部失った!あるのは、なんの夢もないこの国だけだ!」
私の鳩尾、頭を同時に蹴り上げる。
私は刀でそれを防いだ。
「なっ……!」
「私はこの戦いが終わったら、フレイに謝るつもりだ。私にはまだ用事がある。
やらなきゃいけないこと、やりたいこと……。夢も諦めた人生ニートは一生その玉座にいればいいさ!」
私は刀を軸に後ろへ下がり、イツに向かって囁く。
「イツ。今からこの城をぶっ壊す。」
「は!?なんでだよ!?」
イツは驚いた顔をして困惑する。
「あいつのスキルは今心が揺さぶられて安定した状態じゃない。
分厚い弾幕ならかわせない状態だ。」
「この城を弾幕にするっていうのか……?」
「その通り!」
私は再びコウキに向き直り。
「コウキ!何もない空っぽのお前の心と同じようなここを終わらせてやる!」
そのまま脚にスキルをかけて飛び上がった。
そして私達は屋根に着く。
「イツ、フレイはここにいるね?」
「ああ、でもメリーが……」
メリーは柱に倒れ込んで城の一階にいた。
「わかった。メリーさんを助けるために、1階にまで衝撃が渡らないようにしよう」
私はそう言いながら棘を懐から出す。
「サツキ、お前それ……!」
「持っておいたのさ!利用できるもんは利用する。ここには潤沢なマナが残っているはずだからね!」
そう言い、私は棘を口につける。
よし、酸素ボンベみたいなもんだ。吸い出してやる。
私は棘の中のマナを吸い出す。
「……流れてきた流れてきたァ!全部両手の拳に注ぎ込む!いっけええええええ!!!」
城の屋根に渾身の一撃を叩き込む。
すると、屋根にみるみるヒビが入り、そのまま電流のようにして城全体にヒビが入る。
次の瞬間、城はいくつもの瓦礫とかし、下に落ちていった。
「イツ!すまない、今からメリーさんを助けにいく!
このままじゃ危ないかもしれない!」
「ちっ……!しょうがねえ!俺もいくぞ!」
イツはフレイを抱え込みながら、私は『水』で衝撃に備えるためのスキルをかけ、下に落ちていった。
「いたぞ!メリーだ!」
「分かった、私が連れて行く!」
私とイツは地面に着地し、メリーを抱えて安全な場所まで避難した。
全て……今度こそ本当に全て失ってしまったのか……。
だが……これで良かったのかもしれない。
中西沙月……、お前に救われたのか?
「ちょっと、物思いに耽られても困るんですけど」
瓦礫に横たわっていた顔を上げると、そこには中西沙月がいた。
「なんだ……?私を天界に送り返すんだろう?さっさとしてくれ……」
「いやまあそうだけども、お仲間さんとの最後の会話でもどうかな?」
そう言う沙月が抱えているものを見ると、それは紫色の髪をした、俺があまりにも傷つけてしまった……。
「メリー……なのか……?」
「ええ、メリーですよ。最後には多少改心しましたかね?」
メリーは昔の口調で話しかけてきた。
「その……すまなかった。俺は、お前らのことを全然見て___」
俺がそう言うと、メリーは俺を抱き寄せ。
「私たちもですよ。本当に、すみませんでした」
っ……!
「ほら、泣かないで。貴方は頑張ったんですから……
久しぶりに、貴方の本当の顔が見れましたよ」
「それで、コウキ、君はどうしたいんだい?」
沙月は俺に問いかけてくる。
俺は……
「俺は、自分のやってきたことを償いたい。だから、連れてってくれ」
「……分かった」
そう言うと沙月は石を懐から取り出して、俺にかざした。
身体がみるみる光に包まれて行くのを感じる。
ああ、間違いだらけだったけど。
最後に正しくなれて、良かった___
王都編、これにて完結です!次回より新章です!
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