第百四十七話 残骸
「死神の付き人……? あの百姓、何か知っているような恐れ方だったな」
コウヤはあんな風に何を言っているのか理解していないようだが……私は、知っている。
付き人……確かに、サツキといつも一緒にいた私ならそう呼ばれてもおかしくは無い。
でも……やっぱりサツキがそんな風に呼ばれているのは、おかしい。
一刻も早く訂正しないと___
「俺も世間には疎いからな……フレイ殿は何か知っているか?」
「……え?」
唐突に私は声をかけられて……いや、それを尋ねられて、狼狽してしまう。
どう答えるべきか、私は迷ってしまったのだ。
「……さ、さあ……この島での伝説か何かなのでは無いでしょうか……?」
口から勝手にその言葉が出てきた。迷っているうちに、私はそう言ってしまったのだ。
どうして……私は、サツキの事を隠してしまった?言ってしまうと何かまずい事でもあったのか?
……嫌、無い。言っても、しっかりと理由を話せば良いだけだ。私が今隠した理由は……
「……そうか。であれば、仕方が無い。このまま向かうとするか___」
コウヤがそう言うと同時、また道の方から音が聞こえてきた。
ジャリ、と足で土を踏む音。その足音の元は、薄い赤の髪を後ろで一本に結い上げ、一枚の布を織り上げて着ている、長い刀を腰に差す女性だった。
「……誰かが悲鳴をあげたかと思って来て見たら……貴様ら、何者だ?」
そう問う女性からは、警戒心がその視線から目に見えていた。
……この島の人間……にしては、先程の人とは明らかに雰囲気が違う。
「特に怪しい物では無い。ただこのオルゲウスに訪れに来たと言うだけだ」
コウヤがそう返答すると、女性はより一層睨みを強くし、こちらを見据える。
何かに疑いを持つような、疑念の目だった。
「……では、何故精霊の残骸が二つもある? 普通の人間ならば、そのような事は不可能に近い」
___二つ、サラマンダーと、ウンディーネの事を言っているつもりなのか?
コウヤは言葉につまり、返答が滞ってしまう。
だが、私にはそれ以上に、許せない点があった。
「……サラマンダーとウンディーネが、残骸だと言うのですか?」
私は懐からウンディーネとサラマンダーを取り出してその女に見せる。
「やはり……! 貴様、精霊を殺したのか!」
「殺してなどいません! それに……死んでなんていない!」
女の警戒心は、敵対心に変わっていた。しかし、私もそれ以上に怒りを抱いていた。
「殺しはしません……! でも、償ってもらいます!」