第百四十四話 馴れ初め その1
海岸の一つ上、ほぼ登ると言って良いほどの段差の岩壁。
それを超えた先には、整えられたかのようにずらっと並ぶ木々があった。
人が数人横になっても通れるような程の平坦な道があり、ある程度の舗装はされているようにうかがえる。
道に沿って歩けば建物にはたどり着けるだろうと思い、私達は特に行き先に気を止めることもなく歩いていた。
「ところで……コウヤさんのその精霊に対しての信頼についてなんですが……」
ふと昨日聞き逃した事を思い出し、ブリュンヒルデと並んで歩いているコウヤに話しかける。
丈の余ったコートが地面に引き摺られそうになっているが、不思議とその部分だけ重力によって浮き上がっているように見えた。
「ああ、話そうと思っていたところだ。さてどこから話すか……」
宙を見上げ、少し悩ましげにするコウヤにブリュンヒルデは何かを閃いたような顔をし、彼の方へ姿勢を曲げる。
「じゃあさ、私と会ったところからなんてどう?」
ウキウキとした様子からして、きっと話したかったのだろう。
サラマンダーとウンディーネは両方フェアラウスの洞窟の中にたくさんの精霊たちと共にいたが、ブリュンヒルデもフェアラウスに居たのだろうか……?
「私も気になる! どんな風に会ったかって大切だよね!」
上半身だけを前にそらし、イレティナも楽しげな様子で聴こうとする。
「そうだな、あれは晴れた暑い日のことだった。俺はいつもの様に機械を弄り、昼時になって昼食を摂ろうとしていた」
まるで老人の様にゆっくりとした言葉でコウヤは話す。
中性的で幼い見た目なのに、はしゃぐ様な事もなく何十年もの経験があるかの様に落ち着いた言葉遣いと声。
視覚と聴覚の感覚がズレにずれて、少し頭が混乱気味になる。
「楽しみにしていた沢庵を食べようとしたときに、窓から太陽よりも眩しいのでは無いかと思うほどの凄まじい橙の光が一直線に入って来た」
「……はい?」
何か、あまりにもふざけた何の因果も無い話が耳に入って来た様な気がする。
「それが私って事だね。最初はこの身体も使いづらかったけど今は全然便利だよ」
「いやそうでは無くてですね、何で窓から来ちゃってるんですか」