第百四十三話 ブリュンヒルデ
「コウヤ……?」
彼の名はコウヤと言うのか……?
それと、ブリュンヒルデ……いや、この際名前がどのような物なのかはおいておこう。
それよりも、昨日見た銃が精霊だったとは……にしても、あまり私の事を警戒もしていなければ知っているようでも無かった。
というか、ある程度の常識があるのなら昨日殺しかけた相手に話しかけようとするなんてあり得ない。
よほど神経が図太いのか……それとも、あの時意識がなかったとか……?
私がその二人を見ながら考えていると、ふとこちらへ気付いたようにコウヤはこちらへ目を向ける。
「む、そう言えば、自己紹介がまだだった。幼女よ、すまなかった」
コウヤは中性的なその顔を下へ向け、完璧と言えるほどのお辞儀を私に向かってする。
……謝るのは良いとして、何故幼女呼ばわりされなきゃいけないのだろう。どちらかと言うとそちらの方が気になる。
「あの……幼女ではなく、フレイです」
若干青筋が立っているような気もするが、苦笑気味に私は訂正する。
「了解した。ではフレイ、改めてこちらの者を紹介しよう。俺はコウヤ……と言うのが本名、アリスや黒風使い等異名は多々有るが……話していてはまた夜になってしまう。
今は飛ばしておくとして、こちらの精霊はブリュンヒルデ。俺の半身のように思って欲しい」
コウヤに紹介されたブリュンヒルデは金属の身体をガシャガシャと動かして愛想良くこちらへお辞儀する。
柔和な態度を見ていると、昨日のあの凶暴な攻撃を忘れてしまいそうだ。
「だが、俺もブリュンヒルデの半身の様なものだ。例えるなら二人いて成り立つ存在……だろうか」
「そうそう! 私達は一心同体で付くことはあっても離れない!」
息の合った二人の言葉に、私は少々驚いた。
性格の方はほぼ真逆と言ってもおかしくは無いが、相性はかなり良いのかも知れない。
「……なんか、どこかの二人を思い出すわねー……」
「……? どこかの二人とは?」
サラマンダーは少しくたびれたような言い方で呟く。
私が問うと、すこしの間考え込み。
「んー……やっぱ良いわ。あんたが怒りそうだし」
そう言って、結局私には言ってくれなかった。
一体なんだったんだろう……?今度また聞いてみよう。
「……色々と聞きたいことはありますが、時間は無駄にできません。あの高い塔のようなものがある所まで、道すがら話していきましょう」