第百三十七話 空中にて
それは、私の頭より上から、興味を持つような声で聞いて来た。
精霊……?サラマンダーの事か……いや、ウンディーネ……?どちらにせよ、何で気付いて……。
いや、それよりも、だ。攻撃が止んだと言うことは、ひとまず危機は逃れたと考えていいのだろうか……?
「……っ」
しかし、まだジットリと背中に張り付くような不気味さは拭えなかった。すぐに後ろへ下がり、警戒をしながら背後に十数個の光の円を浮かび上がらせる。
先程までシルエットしか見えなかったその姿は、つばが広い黒の軍帽を目深にかぶり、同じ色の強いツヤを持つコートを着ていた。
コートはその体よりも二回りか三回りほど大きく、ぶかぶかで至る所に余っている部分が見える。
袖も明らかに長く、なんというか実用的な服とは思えない服だった。
しかし、そんなふざけた見た目とは裏腹に蒼い色をした眼はこちらをじっくりと見つめ、幼い印象を受ける顔は戦いを何度も経験したような凛々しい表情だった。
私の出した光が不思議だったのか、怪訝な顔をして両脇に浮かぶ大型の銃の上に手を乗せ。
「なんだそれは? もう一度聞くぞ、それは精霊___」
「質問をしたいのならまずその危なっかしい物をしまって下さい。でなければ今すぐにでも、貫きます」
声を張り上げ、相手に舐められないように精一杯の威圧をする。
大丈夫……私は戦えるんだ。
「む……すまない、礼節が足りなかったな。お互い武器を収めてこそ話し合いができるという物、ここは俺から仕舞わせてもらおう」
唐突に銃が縦に向いたかと思った矢先、二対のそれらはぶつかり合って一つになり畳まれて行った。
カシャカシャとまるでパズルでもしているかのように姿形を変化させていき、最後には白い一個のキューブとなった。
……こうされてはこちらも収めるしかない。
光を元のマナへと戻し、自らの体内へ戻して行く。彼は少し頷くと、改めてこちらへ顔を向けた。
「さて……では聞くぞ、その刀は精霊だな?」
っ……そう来るとはわかっていたけど、どう答える……?素直にそうだと言うか?いや、まだ油断は出来ない。
だが、嘘をつくにしても材料が……そもそも、相手がどうしてそう思ったかもまだ分かってはいない。
……どうすれば……?
「そうよ、あたしは精霊よ。炎を操る刀に宿る精霊、サラマンダーよ」
私が頭を抱えそうになっていると、サラマンダーが先に答えた。
「サラマンダー⁉︎」
まだ安全かどうかもわかってはいないのに!どうして答えることが……