第百三十五話 夜のはためき
翼がはためき、暗い夜空の中を私達は飛んでいく。
目まぐるしく変化して行く下の風景は私達がオルゲウスへ近づいている事を教えているようで、私の逸る気持ちも相まってかいつもよりも『仮神翼』のスピードが少し早かった。
「うわああ! 風がすごい顔に吹きつけてくるよ! 凄いねフレイちゃん!」
「かなりのスピードですからね……少しでもバランスが崩れそうになったら言って下さいね?
すぐにリソースを使いますので」
イレティナは私の方に乗っている。重さ等は全然問題ないのだが、いつ落ちてしまうかとこちらも心配してしまう。
始めは落ちないような支えでも作ろうとしたのだが、イレティナがさも自身ありげに大丈夫と言うので、こちらも折れて今この状態なのだ。
「あ、フレイちゃんちょっと待って。もうちょっと右に曲がったほうがいいかな……。もう少し、もう少し……そこそこ、バッチリ!」
イレティナは私の上でオルゲウスまでの最短距離……要するに直線になる道を私が少しずれる旅に教えてくれていた。
それ自体はすぐにでもオルゲウスにつきたい私にとってはとても嬉しい事だけども……イレティナは今、上で地図を両手に握っていて、今はやんわりと私の首に絡まる脚だけでこのスピードと吹き付けてくる風の中を落ちないように耐えているのだ。
バサバサと音を立てる地図が吹き飛ばないようにとイレティナはその手だけはしっかりと握っているが、一体何がどうなってこの状態で私の上にいられるかがわからない。
……もしかしたら、イレティナは重力や風のような物理法則を無視しているんじゃ……いや、そんなはず無いか。驚きで思考力まで下がってしまっているのかもしれない……。
「ところでフレイ、あんた着いたらどうするつもりなの?オルゲウスはまあまあ広いわよ?」
落ちないようにと私の服でがっしりと縛られたサラマンダーが私の腹部あたりから問いかけてくる。
ひとまず、ウンディーネやサラマンダーの現状をどうにかしたいのが一番だ。
……そうだ、その後にあのマナティクスにまつわるものを探して見たりするのもいいかもしれない。もしかしたらまたあの神様に会えるかもしれないし。
「そうですね……では、まず最初に鍛冶屋に行ってみますか?探せば一件はあると思いますし、マナが潤沢な場所です。サラマンダーのマナの修復が出来るかもしれません」
「まあ、どんな考えだって何百発と打てば当たるわよね……とりあえず行ってみましょ!」
オルゲウスにたどり着くまであと二、三十分。どんな景色か、気になってくる。