第百三十四話 飛び立つ
*
「イレティナ、準備は出来ていますか?」
少しもしないうちに出発をする事になり、私はイレティナの準備が完了するのを待つのみだった。
山の中ではあるが、部族の集落の近くに切り立った崖があったのでそこを出発地点として決め、『機械仕掛けの神』を手に握りしめる。
……いよいよサツキを助けるための道の大詰めだ。
ウンディーネが最初に言っていたこの山、魔境と呼ばれたこの地を私達は乗り越えた。
全てを貫く矢と圧倒的な集団である部族、あれらを切り抜けるのはサラマンダー、ウンディーネ……そしてイレティナ。誰かが欠ければこの景色にはたどり着けなかった。
暗い中でも見える青々とした木々。夜でも警戒を欠かさない部族の人たちがあちこちで燃やす焚火。
どれもこれも、落ち着いては見られなかったが今もう一度見てみると……案外、良い景色かもしれない。
「お父さん! こんなに要らないって! 今からフレイちゃんに乗せてもらうんだよ⁉︎」
後ろから、イレティナの声が聞こえて来る。
後ろを振り向くと、盛り上がった岩場の間から出て来るイレティナ、そしてその彼女に大量の荷物を持たせようとそれを突き出す族長がいた。
手に乗せた荷物は葉っぱのようなもので包まれており、金品のような物や地図、コンパスもはみ出て見えていた。
「そう言うな! 持っていけ!」
族長とイレティナのそんな揉み合いを見て、私は少しため息を吐きそうになる。
私が持っているのはサラマンダーと瓶詰めのウンディーネ……あそこまで大量の荷物耐えられるだろうか……?
「もう……じゃあ、これだけね! この地図だけ持って行くから!」
イレティナは少し困ったような顔を見せると、大量にあった荷物の中から丸まった紙切れを一枚取り、示すように族長の目の前に突き出した。
「む、むう……しかし……」
「まあまあ族長さん、イレティナがこれで良いと言っているのですから、ここは彼女の意見を尊重するべきではないでしょうか?」
私がそう言うと、族長も渋々だが納得したようで、荷物を地面に置いてくれた。
まあ、これで落ちる心配はなくなっただろう。
「よし、じゃあ……準備できたよ、フレイちゃん! いつでもオッケー!」
こちらにオッケーサインを送るイレティナに私は一度頷き、『機械仕掛けの神』を手に持って。
「はい、分かりました! では……!」
首筋の血管にその棘を打ち込む。身体の内が激しく脈打ち、マナが溢れ出して行くのを感じる。
棘の管から出るマナは光となり、私の意識した形……純白の翼、『仮神翼』になった。
「イレティナ、乗って下さい! オルゲウスへ出発です!」