第百三十話 凄まじい蹴り
「あー……でも、私何があったのか覚えてないんだけど……」
イレティナは首を軽く傾げて手を顎に当てる。
族長の拳の衝撃が強すぎたのか……?
「えーっと……決着が着いたのは族長の拳とイレティナの足蹴りが決め手で……」
「えぇっ⁉︎ 私足使ったの⁉︎」
イレティナは唐突に驚き、私との顔の距離をぐっと近づかせ、私の言葉をそのままもう一度聞き返す。
視界いっぱいにイレティナの顔が広がり、若干緊張しながらも私は言葉を返す。
「は、はい。それはもう凄まじい勢いで……」
私がそういうと、イレティナは頭を抱えてしゃがみ込み、歯噛みするような唸り声を上げる。
「ううぅ……あれは威力が強すぎるから封印していたのに……」
「封印……ですか?」
確かに族長もあれを食らっていたら顔面がめり込んでいたなんて言っていた気もするけど……
だからと言って封印する必要もないのでは……?
「うん……。……あれ?そう言えば私が勝ったって言ったよね?」
「ええ、はい。まあある意味勝ちと言いましょうか___」
「うわあああああああ! どうしよう! 確かに恨んではいたし、思うところはあったけども! 何も殺す気はなかったのに……!」
イレティナは先ほどの唸りとは比べ物にならないほどの叫び声を上げ、すぐ近くにあったベッドに顔を埋める。
「殺す気って……別にたった一撃で絶命するわけじゃ無いでしょ?仮に当たっていたとしても、治らない物ではないと思うけど……」
「前に岩壁を1m近く穴を作ったことがあって……! え?仮に?」
サラマンダーが半ば冗談まじりにいうと、イレティナはとんでもない事を言い出し始めた。
族長が言っていたことに比べて、余りにもオーバーな威力である。
「ちょっと待って下さい。岩ってどういうことで___」
「イレティナ! 目を覚ましたのか!」
私の言葉は再び遮られ、入り口の方で嬉しそうな声をあげる族長がこちらへ歩み寄ってきた。
「お父さん! なんで生きてるの⁉︎ 私が蹴って貫いちゃったんじゃ……?」
族長はすでに仮面をつけていたが、小首を傾げて何を言っているのかわからない、というような感じがする。
「あー……なんと言えば良いのやら……説明すると少し長くなりますね……」
イレティナは族長と私を交互に見ながら驚愕の表情をしている。
族長は族長でやはり良く分からず、私も若干目を逸らして、この後四五分近く質問と説明を続けることになった。